31話

子供達が帰った後の病室は恐ろしいほど静かで、毎日のように母親は寂しさを感じていた。同時に、この先自分がいなくなってしまった世界について考える時間も故意にではないが増えていった。それは自分自身が持ち得ている自らの体に対する一種の勘と、現実的にそれを考えざるを得ない状況からくるものであった。
母親はふと思い立って紙とペンを取り出した。そこにとりつかれたように文章を書いた母親はそれを3回繰り返し、一つ一つを別々にして茶封筒に入れた。それは、3人に宛てて書いた手紙であった。
その封筒を彼女は枕元の小さな引き出しにしまって、深い眠りへと誘われた。

それから数日が経ったある日、子供達が母親の病室に見舞いに来た時、母の姿はそこになかった。
「にいちゃん、おかあさんがいない!」
シオンはその光景をみた瞬間に泣き出した。
「シオン泣くなよ、本当にお母さんいないのか?」
「にいちゃん、ちゃんと見てよ!いないよ!どうしよう、おかあさんきえちゃった…」
わあわあと大きな声をあげて泣くシオンを、アクメはどうにかなだめようとしたが、自身も動揺しているため、ただ時だけが虚しく過ぎていく。あまりにもシオンが泣くのでその声を聞きつけて数人の看護師が病室へやって来た。


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