30話

「お母さんきたよ!」
真っ白な病室にシオンとアクメとが走り込んで来る。
「シオン、アクメよく来たわね。来るとき、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。心配しないでお母さん」
アクメ9歳、シオン6歳。まだまだ小さな子供である2人を母親は心から心配していた。彼女自身は13歳になるナナリと一緒に来てもらえればいくらか安心なのだが、いくら母親の頼みでもアクメがそれを承諾するとは思えなかったために、あえてそのことについては触れていなかった。
アクメやシオンは夕方頃に病院を出て家に帰宅するが、そのあと夜の面会時間が終わるまではナナリが見舞いにやってくる。2人の息子が病室を出て行った数分後、図ったようにナナリがゆっくりと病室のドアを開ける。その音だけで母親は不憫な息子が来たことを悟ることができた。
「ナナリいらっしゃい。外は寒くない?もう季節が季節だから、風邪引かないように気をつけてね」
ナナリは母親が横になっているベッドの真横にゆっくりと近付いて、そっと母親の右手を握った。これも彼が来た時には毎回する行為で、帰るまでほぼずっと、その手を離すことはなかった。
ナナリはシオンの一件以来、ほとんど喋らないようになってしまったので、見舞いに来た時も終始無言で、病室には母親の息子をいたわる声だけが響いた。
「ナナリ、最近学校はどうなの」
この問いかけにナナリは申し訳なさそうに微笑んだ。
このころナナリは、その見た目や挙動からか、周囲の人間とうまく馴染めず、学校は休みがちであった。しかしクラスの誰もがその事実については何も言わず、先生までもが目をそらしているため、ナナリは学校に行くきっかけもつかめずに、毎日薄暗い部屋の隅っこで体操座りをして過ごしていることもあるらしかった。それも仕方のないことだった。それはこの世界がそのようなしくみになっているからだ。


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