29話

自分が家を空けていた時、一体何が起こったのか。ナナリに問いただしてみてもブルブルと震えながら首を横に降るばかりで明確な答えは得られない。
今回の事で右頬にしかなかった痛ましい傷痕が全くそっくり左頬にもできてしまった。ナナリの頬は糸で縫合されており、それが気になるナナリは相変わらず右も左も手で傷痕に触れていた。
予測からいけば、このようなことができるのは彼しかいない。母親はアクメに事実を問いただした。
「アクメ、怒らないから正直に言ってね。どうしてナナリにあんなことしたの」
「だって、ナナリがシオンのこと食べようとしたの!だからシオンのこと助けたんだよ!」
アクメは興奮気味に答えた。その中に母親はほんの少しだけだが、正真正銘の狂気を感じたのである。それでさえも彼女は、血のせいにして受け入れるようなことはしなかった。

ナナリはアクメから父親と同じように傷つけられたことで、アクメに対して絶対的な恐怖を抱くようになったらしい。その日を境に、自分からアクメに近づくことは一度たりともなくなってしまった。逆にアクメはその日からナナリに更に酷い嫌悪感を抱いたようで、その姿を見るたびに彼を恨み、痛めつけ、罵り、蔑み、この上ない暴力をふるった。
その光景をみた母親は絶望した。彼女の描いていた幸せな家族、ずっと望んでいたあの光景はもう二度と味わうことなどありえない。それにその状況に耐えられるほど彼女は元気ではなかった。自らの気づかないところで心身共に疲れ果て、ついには病に倒れることとなったのである。


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