27話



ナナリの右頬の傷は一向に癒えない。まるでその傷をつけた人間の怨念がそこに篭って現在もあの日と同じように切り裂いているかのように。正しくは、ナナリが傷を気にして触ってばかりいるので治りが遅いだけなのだが、母親が何度注意してもナナリはその傷が気にさわるのかずっと傷口を弄ってばかりいた。
「ねぇ、お父さんはいつ帰ってくるの?」
いくつもの瞳が母親を見つめてそう言ったが、母親はその答えをいつまでも笑顔で濁す。
「お母さんにはわからないわ」
そのなかでただ一人ナナリだけは父親に関する事柄を口にすることはなかった。

あくる日、母親は急用で家を空けなければならなくなった。そのため、不安はあったが、三人を留守番させておくことにした。当時、シオンはまだ4歳で幼かったが、ナナリは11歳、アクメは7歳と多少しっかりしてくる歳であったため、1日程度であったら自分がいなくても大丈夫と判断したのである。ご飯は作り置きしておき、ナナリやアクメ、シオンに生活について注意し、最後に「いい子にしていてね、仲良くするのよ」と念押しした。ただここまでやっても彼女の不安は拭いきれず、何か起こるのではないかという疑念に駆られたまま母親は家を出た。そして、その勘はあながち間違ったものではなかったと彼女を後悔させるようなことが起こるのである。


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