25話

シオンが物心ついた時からずっと今まで、アクメはナナリに対してひどい暴力を振るってきたが大怪我に繋がるようなことはしたことがなかった。それも、わざわざナナリのためにかける治療費がないし、ナナリが少しでも苦しめばそれでいいというアクメの言い分からである。そのおかげかナナリはそれ関係で一度も医者にかかったことはない。自然治癒するギリギリのラインがナナリの生命を守っていたのだ。しかし、今回ばかりは違うようで、これは自然治癒するにも今までとは違う時間のかかり方がしそうだとシオンは思った。
「病院、行かなきゃ。ねえ、ナナリ、病院…」
初めてのことに動揺してか、彼の体は震えていた。ナナリの服の一部を引っ張って玄関から外に出そうとするが、そんな彼にしがみついて必死に抵抗していたのはナナリである。
「だめだ、ナナリ、病院いかなきゃ。腕、そのままになったらだめじゃん…ねえ…!」
シオンがナナリを睨みつけるとナナリはゆっくりと首を横に振った。その姿から感じられるのは余裕でも諦めでもなく、ただ起こったことに対しての恐怖や焦りだ。見開いた瞳に焦点の合わない闇をたたえて、その口をまるで笑っているかのように固く歪ませている。
「な、んで」
シオンはついにナナリから手を離した。
「わかった…ごめん」
ナナリも落ち着いたようにシオンから手を離し、ぐったりと床に体を寝かせた。そしてそのまま疲れたように目を瞑った。

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