24話

シオンが次に目を覚ました時、あたりは静寂に包まれていた。あまりにもお腹がすいてたまらなかったシオンは、足音を立てぬようにそっと階段をおりて台所へと行き、冷蔵庫を開けた。中には食パンがふた切れしかなかった。シオンは少しだけため息をついて冷蔵庫の明かりに照らされているであろう時計を振り返る。今は夜中の2時らしい。
冷蔵庫から取り出したお茶をガラスのコップに注いで一気に飲み干し息を吐き出す。それと同時に朝気になっていたことをふと思い出した。目の前の苦痛に必死で耐えていたせいで、そのことを今まで忘れていたのだ。
シオンは玄関口へ静かに移動して少しだけそちらの方を覗いてみた。そこには寝息を立てながら横たわっているナナリがいるだけである。
「ナナリ…」
彼は何のために自分にそれを見せているのか。何か目的があるのだろうか。
「分からないな」
それがなんとなく恥ずかしくて、もどかしくて、自分の無力さに憤ることしか今の彼にはできなかった。

次の日の朝、シオンが階下へ降りると昨夜のようにアクメがナナリに暴行を加えていた。ナナリは昨日と同じ格好、同じ場所で悲痛の声をあげている。その場から逃げるように洗面台へ行ったシオンは、その直後にいつもとは違うナナリの叫び声を聞いた。
彼は驚いて手のひらに溜めていた少量の水を激しく床に叩きつけてしまった。恐怖で体は固まり、しばらくその場から動くことが出来ない。落ち着いてから耳を凝らすと、もう物音は聞き取れなかった。どうやらアクメが暴力をやめたらしい。だが、その代わりに小さなうめき声が聞こえる。きっとシオンでなければその声は聞こえなかっただろう。その声の出どころへゆっくりと近づくと、ナナリが顔をいくつもの液体でぐちゃぐちゃにしながら右手を抱えて呻いていた。
「折れたんだ」
シオンは蚊の鳴くような声でつぶやいた。
「手首」

[ 24/46 ]

[前へ] [次へ]
[目次]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -