23話

途中、どうしても腹がへったので、耳を塞いで台所まで降りると、いつもより激しいナナリのうめき声と彼を咎めるアクメの声がした。シオンの耳はナナリの声をよく拾う。その中でもアクメの声やその内容がしっかりと聞こえてきたので、気になって少しだけ塞いだ手の力を緩めた。
「ナナリしんじゃえ。お前のことが憎いんだ。何もかも全て奪ったお前が憎いんだ。お前さえいなければ、俺も、シオンも、母さんも、幸せに暮らせたのに。お前のせいで…お前のせいで…」
「ご、め…なさ…ごめん…な…さ…」
うめき声に混じって、そんな言葉が聞こえてきた。それを聞いているか否かわからないが、アクメがその手を止めることはない。いくら彼が許しを請うてもそんなものはお構いなしなのだ。その場凌ぎの謝罪には何の価値もない、とアクメが言っていたのをシオンはふと思い出す。
「い…ほん…は、み……な…し…せに、なっ…」
しかしその後もナナリは言葉を発し続ける。今度ばかりはシオンにも彼がなにを言っているのかわからなかった。それにシオンの耳もそろそろ限界を感じていた。もう一度耳を塞いで自分の部屋への階段を駆け上り、ふと自分が結局何も食料にありつけていないことに気づく。シオンは諦めて眠ることにし、薄暗い部屋の中で目を閉じた。


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