19話


シオンはもうなんとなくわかっていた。自分が見る夢や、先ほど見た幻が全て自分自身もしくはこの姫齧家と強く関わりがあること。そして今自分はそれを知るべくして見ているのだと。否、正しくは、見せられているのだと。

それも、ナナリによって。

知ることは恐ろしいことだ。今までずっと耳を塞いでやり過ごしてきた色々な出来事が今、現実味を持って彼に襲いかかろうとしている。
怖い。それがまず思った彼の率直な感想であった。けれどその怖さを超える好奇心も同時に持ち合わせていた彼の心は揺れていた。その耳に強くあてがった両手の力を、今、彼は緩めようとしている。

「ナナリ」
階下に降りてその名を呼んだ。虚ろな瞳で空虚を見つめていたナナリはその声に反応して視線をシオンに向ける。
「…あのね、ナナリ」
恐怖と興奮で硬くなった体から必死に声を絞り出す。その声は、必要以上に震えていたに違いない。
「えっと…あのね」
肝心な伝えたいことをなかなか言い出せずに、シオンは言葉を濁し続けた。途中、こんな風にしか喋れていない自分のことが恥ずかしくなって、身体中が熱くなるのを感じた。
ナナリはその様子を静かに見守っていた。その瞳にはある種の母性的な暖かさも感じられた。
ついにシオンは黙りこくってしまった。その様子を見てか、ナナリはゆっくりと彼に近づいてその手を取り、俯いてしまった彼の瞳を覗き込むように見つめた。
「ナナリ…」
シオンは緩んでいた両の手にもう一度力を込めて懸命に言葉を繋いだ。
「なん…でもない…。離して」
口をついて出てきた言葉はそれだった。
普段ならこんな時間から学校に行こうとは思えないのだが、このまま家で過ごすのも気まずかったため、シオンはそそくさと支度をし、足早に学校へと向かった。彼が到着した時にはもう昼休みも終わって4時間目が始まろうとしている時であった。

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