17話
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ひやりとした空気を感じてシオンは目覚めた。横たわる体を無理やり起こし、辺りを見回してみるとそこはどうやらリビングらしい。今更ながら冷たい床に身震いをしたシオンは、ふと自らの体に布団のような布がかかっていて、また背後に生暖かい温もりを感じることに気がついた。彼の後ろで穏やかに寝息を立てているのは、口にガムテープを貼ったナナリだった。
シオンがおもむろに立ち上がると、打撲のように体の所々が痛んだ。古びた鳩時計に目をやると、時刻は丁度10:30を指している。カーテンの隙間から見える光の加減からすると、今はもう午前。今日は平日なので、学校はすでに始まっていた。なぜこのリビングでこんなにも深く眠っていたのか、朧げな記憶をゆっくりと辿っていくと、帰宅後すぐにリビングで起こった出来事が彼の脳裏に鮮明に蘇える。
そうだ、ナナリの暗く狂気を帯びた目を見て、極度の動揺から彼は意識を失ったのだ。そして朝になるまで、そのままリビングの冷たい床に横たわっていたのだ。この薄い布もナナリがシオンを労ってかけたのだろう。その布は、シオン1人にかけるには大きすぎるはずなのに、ナナリにはなにもかかっていなかったのだ。
眠りにつくと大抵みる、自分たちに似て、それでいて彼の知らない事が起こる夢にシオンは慣れてしまった。むしろもう、そのお話の続きを知りたいと思うくらいであった。実際今日の夢もそのような夢であったが、彼自身に記憶はないもののどこか懐かしく、記憶の片隅で何かしらデジャヴのようなものが起こっている、そんな気がしてならなかった。
小さくうめき声を漏らしながら、ナナリがゆっくりと後ろで寝返りをうつ音が聞こえた。それと同時にシオンの冷えた右手に微かではあるが生暖かい体温を感じる。その感覚にシオンはびくりと身を硬くした。ゆっくりと振り返ると、華奢な手がシオンの手を包んではいたものの、ナナリ自身はまだ眠りの底にいるらしく、その目を開くことはない。
しかし、もともと薄暗かった室内に目が慣れて、ある程度はっきりとナナリの顔を見ることができていたのも束の間、突然彼の視界はぼんやりとし、ナナリの手の上にもう一つ、小さな手が重なったのが見えた。
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