15話
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ナナリに続き、アクメも異形の人間であったことで、母親はある疑念を抱いていた。しかし、そんなことがあるはずはないと自分に言い聞かせて無かったことにしていた。ただ、その疑念がもう一度、今度は確信的な事実として浮上してくることになったことを、彼女が認めざるを得なくなったことは言うまでもない。2人の兄同様、シオンもまた、異形の人間であったのだ。
シオンは音に敏感で、少しの物音にも反応し泣き声をあげていた。母親の声は安心するようで彼女が喋りかけると朗らかに笑ったり、安らかに眠ったりするのだが、その他の人間の時はほぼ全てにあまり思わしくない反応をした。特にナナリの声には敏感で彼が喋ろうものならすぐに泣き出してしまった。
「ごめんね、ナナリ」
母親がそういいながらナナリの頭をそっと撫でると、ナナリは静かに涙を流した。彼は数日前、ついに父親から喋ることを禁じられたのだ。父親にもアクメにも嫌われ、シオンにも拒絶され、ナナリが唯一頼れる人間は母親しかいなくなった。それだからか、ナナリはいつまでたっても母親に甘えてばかりで、精神的にも年齢相応に自立しているとは言い難く、外でも周りの人間と上手く馴染むことができずに常に一人ぼっちだった。
そんなある日、また事件は起こった。
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