14話



シオンが家に着いた時、時刻は既に夜の10時をまわっていた。家に帰るにはまだ心が重く、道草をくって帰ってみたが、一向に気は晴れなかった。ちょうどリビングのテーブルに突っ伏してナナリが寝ていたので、思わず彼は呟いた。
「僕、ナナリに何か言ったの…?」
机の上に力なく置かれたシオンの右手に突然、ひやっとする感覚が襲った。
「……っ…離して!」
逸らそうとした視線をナナリの視線に絡みとられたかのように、シオンはナナリの暗く生気のない瞳から目を離すことができなかった。
「いや、いやだ…いやだ…!」
シオンは必死だった。このままこの瞳を見つめていたら、自分自身の興味関心の全てのベクトルをナナリに奪われてしまうと、そう感じた。彼が恐れていることはただ一つだ。それは、何かに対して必要以上の熱を持つこと。興味もそう、欲もそう、愛も執着もそれに含まれる。
「あ…ああっ」
ナナリに包まれたシオンの右手はガタガタと小刻みに震え、体からは冷や汗が流れた。このままでは頭がおかしくなってしまう、そう思っても自分の力ではその視線をそらすことはできない。
「シ…オン」
「いやだ、やめて…!いや、いやだぁぁぁ!!」
次の瞬間、シオンはそのまま気を失って冷たい床へと倒れこんだ。

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