12話




シオンは昨日アクメに言われたことが気になって仕方がなく、授業中はいつも真面目にしていることがないのだが、その日はとくに休み時間まであの言葉が頭の中を支配していた。

『……お前だよ。多分、お前が言ったんだ』

僕がナナリに一体何を言ったというのだろう。
その疑問に対する答えはいくら自分の鮮明でない過去の記憶を探しても見つからなかった、否、見つかるわけがなかった。

昼休み、ふと窓の外を見ると今日もまた黒髪の怪しい男がいた。なぜあの人はこの学校の周りをうろつくのだろう。そして何をしているのだろう。シオンは軽く苛立ちさえ覚えたが、そんなことも考えるのが怠惰であった。しかし、自らの意思ではなくその問題が浮上してくるので、彼は考えざるを得ないのだ。普段よりも疲れがたまってか、授業中もうつらうつらして全くもって集中できない。なんども浅い眠りに侵されてまどろんでは現実に戻るということを繰り返した。その間にまた彼を悩ませるような夢を断片的に見るのだ。
夢の内容は、ナナリのこと、アクメのこと、あまり記憶に残っていない母のこと、そして全く知らない父のこと、とにかく自分自身に少なからず関係のあることであるからか、普段見る幼稚な夢よりも頭にこびりついてなかなか忘れることはできなかった。その夢はどうやら前回見た夢の続きらしく、彼にとっては全く知らない世界で、興味深いと同時に恐ろしくもあった。それは今までわざと耳を塞いでやり過ごしてきたような現実を、視覚を通して強制的に認識させられているような、そんな感覚である。
「大丈夫かよ」
友人が振り返り、神妙な声でそう言った。
「お前には関係ないでしょ」
「シオンらしくねえな」
「うるさいな、何も知らないくせに首突っ込んでくるなよ…!」
普段のシオンではありえないほどに声を荒げてしまったためか、休み時間でザワザワしていた教室がしんと静まり返ってしまった。
「ごめん、なんでもない」
とっさに我に返りいつものトーンでつぶやくと、教室は先程と同じような、心地よい雑音を奏で始める。
気がつけば短い至福のひと時は刻々と終わりに迫っていた。バタバタと生徒は席に着き、授業の開始を知らせるチャイムが、学校中に響きわたった。


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