8話



シオンが家に帰るともう既にナナリが家に帰っていた。扉の閉まる音を聞きつけてか、ナナリは廊下の方を覗くようにドアからひょっこりと顔を出して意味有り気に微笑んだ。
再び部屋に引っ込んだナナリを追うように、シオンはリビングに続く廊下を無心で歩く。そして部屋に入ってすぐにある、低めの棚の上のメモ用紙に書き置きがしてあることに気が付いた。
『シオンへ
急で悪いが、仕事で数日家を開けることになった。お前ももう高校生だから、俺は何も言わないが、どうにかやりくりしてくれ。今日も帰りが遅くなる アクメ』
メモを読み終ったとき、シオンはふと背後に絡みつくような視線を感じた。振り返るとすぐそこにナナリが立っていた。
「なに…?……ああ、そうか。アクメがいなくなって嬉しいんでしょ」
ナナリの華奢な指がシオンの学ランの袖を申し訳程度につかんだ。伏せられた瞳がこちらを見ていないことは確かだが、その顔には明らかに安心の色が見える。
「…そうだね、わざわざナナリを殴ったりするのはめんどくさいし、僕は何もしないけど、ナナリも僕に関わらないでよね。めんどくさいから」
シオンがそれを無慈悲に振り払って、自分の部屋に戻ろうとしたその時、背後にいるナナリの声がシオンの耳元で囁いた。
「…シオン」
シオンは咄嗟に耳を塞いだがその努力も虚しく、彼の耳はナナリの声だけを拾っていく。そのままシオンは何も言わずに自分の部屋へと駆け込んだ。

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