●緑依存症



「あっ…」
遠藤は小さな観葉植物の鉢植えを手にとって買い物カゴに入れた。すでに重くなっていたカゴが、また少し彼女の腕に食い込んだ。
周りの人間が遠藤を一瞥しては、仲間内でヒソヒソと言い合う。恐らく彼ら彼女らは全身を緑色に着飾った一人の女を不審におもっているのだろう。しかし、そんな周りの目も気にならないほど、彼女は緑を愛しているのだ。

同じように遠藤の家も緑に包まれていた。家自体よりも庭のほうが広く、所狭しと木が植えられている。そのほとんどが常緑樹で彼女の庭は一年中緑に溢れていた。さらに、家の中にも観葉植物が隙間なく並べられて、窮屈そうに首をもたげていた。

遠藤はこの光景を満足そうに眺めて今日新たに手に入れた新しい植物を、残りわずかな床の空きスペースに置いていく。
「素敵…美しいわ…なんて美しいの」
小さな植物のために腰を屈めると緑の長髪が視界に入ってくる。それを弄ぼうとする手には緑色のネイルが施されていた。

しかし、彼女はそれをみて少し不機嫌になった。ネイルが気に入らないのではない、自分の肌の色が気に入らないのだ。
「こんなの、美しくない。美しくないわ…!」
遠藤は無心に肌を掻きむしった。その腕には沢山の赤い線が浮かび上がった。
「どうして?なんでなの?どうして緑色じゃないの?美しくないでしょ?ねぇ!」
彼女がどんなに願っても、醜い肌色は赤く染まる一方であった。それはまるで、自らの運命が自分自身を嘲笑うようで、彼女にとって苦しみでしかなかった。

気がつけば辺りは闇に包まれていた。その中で、部屋にある非常口のライトが、うずくまった彼女を仄かに照らしていた。
「素敵…素敵ね…」
彼女は導かれるままにその扉をくぐった。その向こう側には、苔の生えた岩に囲まれた、底の見えない深緑色の池があった。
おぼつかない足取りで彼女はただ前に進み続ける。その後、彼女は果てしない緑色の暗く深い世界へと飛び込んでいったのである。

〜fin〜

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テーマ「人外ファンタジー」
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