●リセット依存症

「カイトさんまた君か、いい加減にししてくれ!」
「あっいや、その、すみません!つい…」
髭を生やした中年男性はヒステリックに叫んだ。その男に新入社員のカイトは必死で頭を下げていた。
「ついじゃない!データが消えたらどうするつもりなんだ」
「だから、その、すみません…」
なぜカイトがこのようなめにあっているのか…事件はついさっき起こった。

正午すぎ、彼の上司であるヒゲの男はお手洗いに行くために席をたった。ちょうどそこに、頼まれていた仕事を終えたカイトが資料をもってやってきたのである。

上司は少しの間だから、とパソコンで作成途中の文書を置いたままだった。それを見たカイトは、そのパソコンの電源ボタンを押して強制終了させてしまったのである。

彼はリセット依存症。ゲームのセーブデータを消すことは日常茶飯事で、部屋のレイアウトも一週間ももたないし、もっと言えば一年で何度も引っ越しをしたこともある。悪い時には自殺を図ったことがあったが、死んでしまってもリセットできないと考えてやめた。今はパソコンの電源を落とすのが癖になってしまい、この会社では自分や他人のパソコンの電源を落とす常習犯となっている。そのため同僚は皆、席を立つ時は少しの間でも電源を落とすようにしていた。カイトにとってそのほったらかしのパソコンは、久々に彼の興奮を煽る格好の餌食だったのである。

「まったくもってけしからん。次やったら上層部に報告してクビにしてやるからな…!」
「…………」
「なんとか言わんか!」
「私……やめます」
「そうだ、もうこんなくだらないことはやめなさい」

「私、会社辞めます」
「…………は?」

「私、会社辞めます。色々ありがとうございました。それでは、失礼します」
「いや、君、そんなこと急に言われても困」

状況を飲み込めない上司や周りの動揺を背後に残して、颯爽とカイトはその場を去った。その顔はなにかスッキリしたように晴れやかであった。

〜Fin〜

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