「俺に死ねと言ってるのか」
……は?
なに、意味わかんない。
*
訓練兵になったばかりの頃、周りの人たちに私とリヴァイは似ていると言われていた。
しぐさとか、好きなものとかそんな小さなことばかりだったけど。
リヴァイはどんどん上の人を抜いていって、兵士長になってしまった。
実力の差はよくわかっていたけど、ショックだった。
別に兵士長になりたかったわけじゃない。
リヴァイとの差が開いてしまったことが、ショックでしょうがなかった。
似ていると言われていた私は何かとリヴァイの真似をする癖がついてしまっていた。
そして兵士長とただの調査兵は、似ても似つかないのだ。
訓練兵を卒業した奴がこんなにやるなんてバカなんじゃないのか。
なんて言われてもしょうがないくらい訓練を重ねた。
だって、こんなんじゃ追いつけないよ、リヴァイに追いつけないんだよ。
ガラッと、訓練室の扉が開く音がした。
休憩中だった私と、扉を開いたリヴァイの目が合う。
お前こんなとこに用事なんてないだろ。帰れ帰れ。
「…リヴァイ兵士長、なにかご用ですか」
「レナ、お前変わったな」
「……は、」
何を言ってるんだろう、強くなったってこと?
ひやかしなら帰ってくれないかなあ。
なんたって私は、訓練でとても忙しいのだから。
「昔は上の立場なんて目指してなかっただろ」
嗚呼、そういうことか。
「兵士長になりたいんです」
びっくりしている顔。
みんなに見せてやりたい、普段は見られない豆鉄砲をくらった鳩のような間抜け面。
「俺に死ねと言ってるのか」
……は?
なに、意味わかんない。
「次の兵士長が決まるのは、俺が死んだ時だ」
現兵士長は先ほどとは全く違う、真剣な顔で私を見てる。
どうしてだろう、どうしてくれるのだろう、その言葉には妙に説得力があって今までの私が本当に、本当にバカみたいに思えてくるじゃないか。
「……っ、なれるよ。
リヴァイが死ななくったって私は兵士長になれるよ!
リヴァイと私は似てるんだから私だって…っ!!」
私とリヴァイは"似てる"から、絶対に私だってなれる。
ずっとそう思って訓練やら壁外調査やらをしてきたのに、全部、今までの私がボロボロと崩れ落ちていきそうな気分になる。
頬には熱い液体がボロボロと溢れ、水の道を作ってる。
ゆっくりと私の近くまで歩いてくるリヴァイ。
なんだろう、バカにするんだろうか。
バカにされたら、リヴァイをチビだって存分にバカにしてやろう。
「残念だったな」
ほらね?
やっぱりバカにするんだ。
「俺は死なない」
指でぐいっと荒々しく私の涙を拭いながら、リヴァイは死なないと言った。
その言葉もなぜだか説得力があって、だけどそんな保証はどこにもなくて、なんだかおかしいなと笑ってしまった。
「…そのままのレナの方が、好きだ」
クスクスと笑っていた私に、急に降りかかってきた言葉。
キョトンとして見つめているとリヴァイはバツの悪そうな感じで訓練室を出ていった。
「リヴァイ、待ってよ」
使っていたものをささっと片付けて、すでに廊下の端まで行ってしまったリヴァイを追いかける。
兵士長になれなくったって、リヴァイを追いつくことができなくったって、リヴァイのそばにいられるだけで私は幸せなのかもしれない。
追いかけっこ
「ねぇねぇ、リヴァイ、私もリヴァイが好き」
「……うるせぇ」
追いかけていたのは競争心じゃなくて、好きだったからかもしれない。