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あの男が触れた場所を俺も同じように触れてから、もうずいぶん前から合わさっていた唇をようやく離した。
紅潮した頬を両手で包みこみ、更に追い込んで困惑した表情のお前を壁際に追い込む。
この腕の中から決して逃げないように、と。
唇を舐めるようにもう一度口付けし、その間に赤いリボンを首から引き抜く。
擦れた音を立てて引き離されたリボンの次は、ジャケット。そしてブラウスだ。
「ん……んぅ、すずやぁ……」
やんわりと俺の胸を押し返す仕草を見せたのは、本当なら当たり前で。ここが学園の中だからだ。
「やぁ、やだあぁ……!」
冷静のままでいられたなら、こんな事するはずがない。
嫌がるこいつを無視して、誰もいない空き教室へと無理矢理連れ込んだ。最初に始めたのは、俺以外の奴が触れていった場所を全てを消毒していく事だった。
哉太に言われた『独占病』もあながち外れじゃない。
こいつの事になると見境がなくなること自体を、既に自覚しているから。
こんなにも、抑えが聞かなくなるのは俺が妬む相手が、俺の敵うはず無いほどの人物だからか。
この学園のシンボルともいえる不知火会長。とてもじゃないが俺が会長のようになるには、無理がある。
だからこそ向けるのは羨望で。醜い嫉妬だった。
幼馴染みというだけでは。
恋人というだけでは得られない、その年上という特権。
同じ生徒会に。
しかも会長のような奴がいれば、もしかしたら月子は会長の事が好きになるかもしれない。
強引だが、兄のような存在である会長にこいつが心を許している事など、一目見ればわかるのだから。
それが今ではなくとも、近い未来に。
誰かに……例えば、哉太や羊にこの事を話した事など一度もなく、心の端に思い留めていた程度だった。
予感ではなくて、ただの可能性。
それなのに、その可能性の一端を目撃してしまうと、自分を抑えられなくなった。
不知火会長には予知能力があるという。
星詠み科にいるぐらいだから、それも頷ける。
その力が発揮されたのか、月子に迫った危機を寸での所で救った会長。
確か、さっきまで遥か彼方の場所に居たはずなのに。
いつの間にかすぐ目の前に、手の届く距離に居た俺は呆然とその始終を見つめていた。
青ざめたあいつの顔や頭を撫でて宥めようとしている会長は、とても後輩に対しての眼差しではなかった。
自分の宝物を守りきって安堵している……その対象は、まるで恋人みたいに。
星詠みの力が欲しいわけではない。でも、月子を守る力だけは欲しかった。それは昔から変わらずに思い続けている。
「すずやぁ……や、やめてっ」
だからこそ、こんな表情なんかさせたくないのに。月子を求める手が止まらない。
小さく喘ぐ様に必死で制止を求めてきているのに、それでもその対象が俺に向いているのが嬉しくて。
ボタンの外れたブラウスの隙間から、縫って入るように手の日を潜り込ませた。
陽に当たらない真っ白な肌に触れ、隠れた胸を晒すように下着を押し上げた。
「やだ、ダメ……だよっ」
その懇願も頭の中から追い出し、月子の胸を片方の手のひらで包んで揉みあげる。
もう片方は、下肢へと向かって。
緊張してるのか強ばっている脚に割り込んで、片方の膝を持ち上げて抱えあげた。
いきなりそうはくると思わなかったのか、体勢を崩す月子を、壁に押し付け繋ぎ止める。
いや、いや。と首を降るその顔を見ながら、ショーツの脇から俺のたぎっていく熱を押し付け、無理矢理月子の中に押し入った。
「やぁ……痛っ」
性交が初めてという訳ではないが、無理矢理繋がりを持とうとするナカは濡れるはずがない。
摩擦の多い内壁のナカを、重力にしたがって突き進む。性急に繋がりを求めたせいで、月子は悲痛な顔をあらわにしていた。
それでも俺の中にいる獣は止まることを知らずに、根元までそれを埋め込んだ。
「うぅ……う」
呻き声を漏らしながらぎゅっと目を瞑るのは、俺の顔を見たくないからだろうか?
こんな時に卑怯にも俺は優しく、数えきれないほどの口づけを繰り返す。
「す、ずや……っ」
ようやくおずおずと開かれた瞳は潤み、目尻から涙が零れていった。
守りたいと。
大事にしたいと。
そう思ってるのに、心と身体はうまくいかない。
ゴ メ ン 。
言葉にせずに唇に載せただけけの意味のなさない思いを伝え、あとはもう、物のような扱いで月子を揺さぶった。
痛みで濡れるはずなどない蜜壺が、ほんの少し行き来しやすくなったのは、女性の体の特性か、それとも俺の熱から先走って流れ出たもののせいか。
いつもの壊れ物を扱うような優しい繋がりなど少しも存在しない。ひとりよがりな繋がりだ。
ゴメン、月子。ゴメンな……。
何度も心の中で謝罪するものの、身体が止まらない。
なおも、浅ましく月子を求め続けている。
「っ……ぅ、……っ」
時折聞こえてくる声は悲鳴を噛み殺しているのかくぐもっている。
そんな中で、月子の最奥に俺は自分の欲望を吐き出した。
荒い息をついて、崩れるようにその場へに座り込む。
未だに月子と繋がったまま離れなかったのは、いつの間にか首裏に両手が回っていたから。
そんなことにも気づかずに、俺は夢中で月子を求めていたのだ。
引き寄せられた首に、すすり泣くような月子の声がする。
頭が真っ白になった。この後どうすれば良いんだろうかと、まるっきり考えられなかった。
こんな最低な彼氏と月子は今後も付き合いたいとなんて思うんだろうか。
一緒に居たいなんて…………思わないだろうな。
どう謝れば。
どうすれば。
脱力感を覚えながらなすすべもない状態でいると、ポンポンと背中を優しく叩かれる。
抱き締めた月子が、やさしく、やさしく……。
「っ……錫也、もう辛くない?……痛くない?」
嗚咽混じりの声で、月子の方が余程辛くて、痛いはずなのに。
訪ねてきたのはそんな事。
「嫌なことがあったの?」
「錫也は頑張りすぎだよ」
「……たまには私を頼ってね」
月子は俺とは違う。そんなのわかってるけど。
俺は月子みたいにやさしくなれなくて、月子みたいになんに対しても寛大になれない。
手が。
腕が。
全身が…………震えた。
震えるその腕を月子の背中に回す。
「ゴメンな……月子」
謝っても謝りきれない。
そんな俺の言葉ごと、月子は包み込んだ。
「大丈夫……ちゃんと伝わってるよ。ずっと、ずっと、謝ってくれてたよね?」
錫也が痛そうな顔してたからわかるよ。
肩口に埋められていたから、月子の顔は見えなかった。
そっと上がっていくその顔は、俺を安心させようとしてか微笑んでいる。
「次は……や、やさしくして…ね?」
囁くように言い、徐々に顔を火照らせていく月子。
次の約束に胸を踊らせて、月子に口付けをすると、緩やかに締め付けられたナカに息を飲んだ。
そういえば、まだ繋がったままだったそこは、思い出すとみるみる存在を誇張していく。
「すず、や……?……あっ」
「ゴメン……なんか」
一度放った熱が月子のナカに満ちて、互いの接触を軽くする。
「あ、……っ、すずやぁっ」
重た気な水音が響く下肢は、往復する度に音が増していく。
そして、月子の声も聞くたびに快感を訴える、甲高いものになっていく。
やさしく月子を抱き締め、唇に、首に。と、届く限りの口づけをし、月子の気持ちを高めていく。
「ぁあ、ん…んんっ!」
濡れた瞳で俺を見つめる月子に身体を熱くさせながら、やわらかな肢体に触れて互いの熱を溶かしあっていった。
足元からはがれ落ちる君の気配
(エナメル)
2010.03.30
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