哀想/スタスカ | ナノ


茜空を一度見上げてから、俺は意を決して顔を横に向けた。すぐ隣には、学園でただ一人の女子生徒、夜久の姿。
三カ月前にようやく、……ようやく夜久に告白した俺は、自分でも相当驚いたが、数日後にOKの返事をもらって今に至る訳だ……が、未だに手すら握った事がない。

……などという、情けないオチが待っていた。

友達の時でさえまともに喋れた事などなかったのに、さすがにハードルが高すぎたか。でも、当然のことだが後悔はしてない!
例え、夜久の幼なじみ達を含めたほぼ全校生徒達が冷たい視線を送るようになっても。俺の見方が、犬飼と小熊、そして部長こと鬼の宮地しかいない状態でも、後悔はしてない!!!……ハズだ。


とは思うが、今更だけど夜久は俺のどこが良かったんだろ。
いい返事はもらったはずなんだけど、未だによく分かってない俺。
毎日一緒に登下校してるだけのが物凄い進歩だし、それこそ付き合いだして数週間くらいはガチガチに声も身体も震え、一緒に行動する所ではなかったけどなー。


我ながら女々しい思考回路でいた時、夜久が小さな声を上げて俺を見つめてきた。

「白鳥君」

「うええ、あ、え……っと何?」

夜久が顔を上げて首を傾けた際に、肩から静かにこぼれ落ちていった髪が、太陽の光に透けてキラキラ輝いた。

微笑みかけてくれるその表情だけで、俺はその日のキツい部活なんか、頭の片隅へ隠され、身も心も癒された。それは気のせいなんかじゃない。

「あのね、お願いがあるの」

「お、お、おお願いー?!いいいいけど。何か俺が出来る事?」

「うん、白鳥君だからお願いがあるの」

なんて、モテ期など一度も起きたことなどなく、そんな事言われたこともなく今まで過ごしてきた俺は、瞬間すぐに有頂天で。どんな願いでも叶えてやりたいって気になってたんだけど。

「今度、生徒会の催しで衣装を作らなきゃいけなくなっちゃって。もしよかったらなんだけど、白鳥君に少しだけお願いしてもいい?」

両手を合わせて上目遣いでお願い。なんて、普通のグラビアアイドルだったら多分……多分釣られないんだぞ。って思ってるのに、見事に夜久には釣られて、俺は身体が熱くなった。

「いいいぃぜ!夜久の頼みだし、てて手伝うよ!!」

「本当に?ありがとう!」

そう承諾すれば、俺の見たかった表情で夜久が嬉しそうに笑うから。高鳴りすぎて口から飛び出してきそうな心臓を抑えながら、首を縦に振っていると、夜久がゆっくり立ち止まった。

「どうしたんだ?」

「白鳥君の方がお裁縫が上手だからって、本当はこういうの頼んでばかりじゃ駄目だよね。嫌だったら遠慮なく言ってね?」

「嫌なんかじゃ……」

「ううん。私……付き合うっていうのが、……本当はまだ良く分からなくて。白鳥君といるのいつも楽しいから……甘えてるのが大きいかもしれないけど」

いつも夜久を笑わせるのが俺の役割だし、こうした話に転ぶことは、今まで無かった。

「友達の好きじゃない、ちゃんとした『好き』って気持ちがね、白鳥君といて分かってきたの。だから、もっと隣にいさせてください」

俺と同じ様に真っ赤な顔した夜久が、そう言ってきて俺は声もなく頷く。

「ぁあの……さ、俺もお願いがあるんだけど」

「うん?」

「手、繋いでもいい?」

視線を夜久の手に走らせていると、小さな声で夜久が「うん」と頷いた。







沈みきってしまった夕日の変わりに一番星が輝き始める。

「一番星、見つけた」

「本当だ、スゴい綺麗だな……」

そう見上げた空は実はほとんど目に入るどころではなく、今はただ、嬉しさと緊張をに戸惑いながら、手のひらに感じる温もりに浸っていた。






そばで笑いたいんじゃなくてそばにいたいんです
2011.04.05
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