哀想/スタスカ | ナノ


細かい硝子の細工が、天井を飾っている。見るも眩しいシャンデリアが、輝きと共にそのフロアを照らしていた。
煌びやかなドレスを着飾る者達は、仮面のように張り付いた笑みを浮かべて輪舞する。まるで糸に操られてながらも、ワルツのステップを踏むように、決まった動きに決まった速度。
それは道化師に操られたマリオネットのごとく自然のようで不自然。張り詰めた糸を自ら触れれば、たちまち糸が絡まり動かなくなってしまう、哀れな人形。

慣れている場とはいえ、いつも気を張り詰めなければ平静で居られるのも難しい。
それが社交界という場所だとは、昔から分かっていたはずなのに、その場を離れるまで僕自身がマリオネットになったの気分は消えることはなかった。





宿泊ホテルへ着いた僕は、フロントで預かった鍵で部屋の扉を開けた。

「颯斗君?」

途端に、部屋の奥から鈴の音のような、可愛らしい声が届いた。恋人である月子さんの声。
僕はここへ月子さんと来ていた。笑顔で出迎えて下さった月子さんの傍へ近寄った僕は、その華奢な身体を腕の中に包み込むように抱き締めた。

「おかえり、颯斗くん。……どうかしたの?」
「ただいま帰りました、月子さん。留守中、何も変わりはなかったですか」

「う、うん……なかったよ」

あまりにも真剣味を帯びた僕の言葉に、彼女が戸惑っているのがわかる。

「颯斗君が出て行ってから半日しかたってないよ」

大げさだと小さく笑う月子さんへ僕は笑い返す事が出来なかった。

僕の家族や親戚の者達が、月子さんに逢ってみたいとそうせがんで来たため、無理を言ってここまで同行をお願いをしてみた。けれど、寸前で家族との対面を恐れた僕は、結局ここで待っていて貰うことにした。

あの人達は、きっと月子さんにいらぬ事を告げるだろう。そう、予想がついていたものだから。
それにあの人達の事。既に僕の過ごすホテルなど把握していて、訪問してくる事も懸念していた。
月子さんにも絶対に部屋から出ないようお願いをして、何かあったときのためフロントへ鍵を託しておいた。
彼女が悲しみに暮れないよう、僕から離れていかないよう、僕は僕の出来ることをするしかない。


「颯斗君、やっぱり私も一緒に行けばよかったね、ごめんね」

「いえ、こんなところまで呼んでおいて、結局あなたを独りにしてしまってすみません。……ですが、今のあの人達にあなたを逢わせるのに、まだ気持ちの整理が出来ないのです」

「でも、私、苦しんでる颯斗君の力になりたいよ」

それでも、僕は認められなかった。
例え常に僕と行動を共にしていたとしても、なにか不足の事態で月子さんを傷つけたとしたら。それでもし、月子さんを失うとしたら、僕はそんな自分を絶対に許さないだろう。

もし、月子さんが無理にでもついて行こうとしたら、この部屋に縛り付けてでも、僕一人で行こうとしていた。……なんて、そんな事を月子さんが知ったら、同じ様に離れてしまうのだろうか。

無言を突き通す僕に、月子さんはそっと顔を上げた。悲しみに揺れる瞳が、胸の奥に響いていく。

「わかった……でもね、いつかは逢わせてくれる?颯斗君の負担を少しでも少なくしてあげたいから」

そう言って、微笑んだ月子さんは、背伸びをして目を伏せた。

当面は、……僕自身が周囲の皆さんから認められるまでは恐らくその日がこないように、回避するでしょうが。
そう、思いを内に秘め、僕は吸い寄せられるようにしっとりしたその唇に、口づけを落とし、彼女を抱き締めた。

やわらかなその肢体を撫でていくと、次第に荒みかけていた心が安らいでいく。

「……っん」

ついばむような口づけを繰り返してから、そっと解いていったあと、彼女の耳朶に唇寄せた。

「……いつか、必ず」

そう囁いたあと、彼女の顔には大輪の笑顔が咲いていた。






ついでに脚をもいでってくれませんか
2011.03.12

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