哀想/スタスカ | ナノ


※18歳未満(18歳の高校生含む)閲覧不可 








涼やかな虫の音は、締め切った窓をすり抜けて、オレのところまで聞こえてきた。

採点済みのプリントの山を横目に、手には酒の入ったグラスを持っていた。そのグラスを無意味にゆらゆらと揺らしては、琥珀色の酒を舐めるようにを楽しんでいた。

普段ならもう何杯も空けているだろうに、今日はまだいつもの半分以下。グラス半分も飲めていない。ピッチがあがらないのは、手にした天体雑誌が原因だ。毎月、天体に関する様々な事が書かれて、星月学園で教鞭を執る教師の必須アイテムともいえる。

もちろん、資料はこれだけじゃなく、海外雑誌を積極的に講読してるし、色んな学者の論文や講義を拝聴する機会があれば行っている。


星に関すること全てが、オレの中心で回っていた。
星だけがオレの全てを魅了する……今までは、ずっとそう思ってたのに。

それを変えていったのは、教え子であり恋人でもある夜久の存在。

星を見てる時みたいにあいつは眩しくて、綺麗で、見てると穏やかな気持ちになれる。

そういえば、最近、他の先生からはますます若くなったように見えますねって言われが、それはきっとあいつに『恋』をしてるからだと思う。あいつの事考えると、まるで教え子達の年代みたいにドキドキしてあいつしか考えられなくなる。恋の泉に溺れてしまいそうになるんだ。



隙間なく抱きしめて、オレの名前を紡ぐその唇にキスをして、それから想いを全て伝えるように身体を繋げ……いやいやいや、待て直獅。それは、随分と早計だろ。考えなしもいいところだ!もう少し冷静になれ。

夜久に逢うたびに口付けだけでは物足りなくなってきている自分が居た。唇を合わせるだけの可愛いキスから啄ばむようなバードキスをしたら、もっとあいつの事が欲しくなったオレは、舌を絡めて引きずり出し、舐めて、口内の粘膜を確かめるような、お互いを暴いていく深い口付けを求めてしまっていた。


与えるものに従順に従っていく可愛いあいつは、嫌がる事をしないから……俺はもっと欲しくなる。いや、悪いのはあいつの所為じゃないな……全部俺の所為だ。だから、最近は二人っきりで逢うのが少し……怖い。

カランと軽い氷の音が鳴り、忘れていた酒の存在に気付き、またグラスを傾けた。その時。廊下へと続く部屋の扉が叩かれた気がした。机のところにあった時計を見ると、短針が『10』を示している。

こんな時間に来るのは……琥太郎センセかな?

その外の先生とは、琥太郎センセより交流はないからそんな事を思った。


「は〜い、今開けます」

立ち上がって扉を開けたオレは、目の前の人物を見て、固まった。……喉まで。

「〜〜っ!!」

何か喋らなくてはいけないと分かっているのに、どうしたことか言葉が出てこない。とりあえず、口より先に行動が先に出た。そいつの手を引っ張って部屋の中に引き込むと急いで部屋の扉を閉めた。一気に吹き出た汗がオレの緊張の度合いを表している。先程風呂に入ったのが、なんだか無意味なような気がしてくるぐらいの発汗状態に、オレもびっくりだ。そして、そんなことより驚きなのは、目の前に居るのが夜久だったからだ。職員寮の一角に夜久の部屋があることは知っている……が、まさかここに来るとは。

「お、おおお、おまえ!こんな時間に」

「ごめんなさい…っ、……あの、やっぱり帰ります」

少し声を荒げたのを、咎めたのだと勘違いしたのか、夜久は回れ右をして帰ろうとする。そういえば、どうして来たのか聞いてない。このぐらい堂々と対処できるのが男ってもんだろ。慌ててどうするんだ直獅!……もっと大人の余裕を見せるんだ!

「待てって……、どうした?」

「え……?……あ、あの…………あのですね」

「お、おう!………な、なんだ」

もじもじと俯くその姿は、オレの胸にグっとクるものがある。こいつのこうやってすぐ恥ずかしがる所も凄く可愛くて好きなんだよな。もしかして、オレに逢いたかった……とか言われたら、どうしようなあ……なんて……!

「あの、……漫画を借りに来ました」

「へ……?、ま…んが?」

「この前貸してくれた少年漫画の続きが読みたくて……その……」

「あ……そ、そうか……そうだよな……ははは」

「陽日先生?」

多少はそんなロマンチックな事を考えてみても、オレの考えてたそれは所詮は妄想。そんなことあるわけない……か。少し肩を落としつつ、ずらりと並ぶ漫画の棚に目を移した。座り込んで初めの巻から数冊抜けている場所を探し、その後の巻を抜き取った。オレのすぐ隣にあいつが座る気配がして、ゆっくりと横を向くと。
「ほら、この巻からで良か……っ」

肩が触れ合う程の至近距離で、横を向けばすぐ傍にあいつの顔があるのは当たり前だったけれど。
先程とは違う、少し頬を染めた顔でオレの事を見てくる夜久から……目が、離せなかった。

「本当は……漫画は、先生に逢うための口実です……」

もちろん、漫画は面白かったですよ?そう言って、俺の服の袖を緩く掴む夜久。じんわりと触れられた腕に熱が篭る。それは甘い痺れを生み、オレの身体全体に行き渡り、静かに蝕んでいく。

「ごめんなさい。陽日先生にほんの少しでいいから、……逢いたかったんです」

眉を下げて、少し悲しそうな揺れる眼差し。無言で見つめているオレは、ゆっくりと手を伸ばし夜久の頬に触れた。

「謝るなよ……、お前が逢いに来てくれて……オレ、すっごい嬉しいんだからな」

笑顔でそう言ったオレはゆっくりと顔を近づけていく。その距離が縮まる事に夜久は瞼を下ろていった。やがて、そっと重なった口付けに想いが溢れる。頬に添えていた手をそのまま首裏へと移し、空いていたもう片方の手が、細い首筋を辿って華奢な肩へと移動した。
一度唇を離し、間近で夜久を見ると、長い睫毛がふるふると震えている。

「……好きだ」

呟くように言って、再び唇を合わせると、もうこいつを離したくなくて。唇を食むように何度も合わせると、それはやがて深いものになった。

「……っ……ん、…ぅ」

甘い甘い口内を舐めとり、おずおずと遠慮がちな夜久の舌を絡めて、味わう。敏感な舌は、身体の熱を上げて行き、その熱が下半身へ集まっていくのを感じた。

肩に触れる不埒な手が、そのまま下へとさがり悪さを働く。

「ンっ?!……っんん」

びくりと肩を震わせて夜久がくぐもった声をあげたのは、オレの手がなだらかな夜久の胸を撫でていったから。手に感じるその感触は、当然な事だがオレは初めて感じるものだった。
男の俺にはない、女の子の身体の柔らかさに胸が高鳴る。
いつものオレだったら夜久が身体を振るわせた時点で、きっとやめただろう。

だが、今日のオレはそれを無視して突っ走っていた。
酒の所為か。いや、でも……酔うほどには飲んでないはずなのに。だが、頭の回転がどこか鈍く、まるで他人事のように自分を見つめているような気がするから、やっぱり酔っているのだろうか。

夜久を触れる手は、止まない。それどころか、どんどん大胆になっていく。
触れる程度だったその柔らかさを堪能するかのように、手のひらに収めて揉んで、形を変えるその弾力性にひそかに感動していた。

「ふぅ……ん、ン……んんっ!」

嫌がっているのかそうでないのか、後退しようとするが、オレが首裏を押さえている所為でそれが叶わない。だがその口付けも、夜久が急にしりもちを付いて座った所為で、解けていった。
乱れた息を吐く中、オレはまた息を飲む事になる。

お前、実は確信犯じゃないのかそう思いたくなったのは、そんな部屋着あるか?そう思うぐらいの膝上のスカートを夜久が履いていたから。さっきは必死すぎて気付かなかったが、しりもちをついたその態勢から覗く、あいつの太ももに釘付けになった。見えそうで見えない下着に余計に興奮して、それを暴いて見たいと脳が訴えている。

「はる…き、せんせ……?」

たどたどしい口調で言う夜久の声が引き金となり、手が伸びた。触れた先は、気になっていた太ももの上だ。びくりと震えた夜久が、泣きそうな顔でオレのことを見ている。

「ごめん。……このまま進んでも、いいか?お前の事が欲しいんだ。……嫌だったら、今すぐ逃げてもいいから。そしたら、お前の中でオレを受け入れる時期が来るまで……ずっと待つから」

オレの感情をあいつが受けるとしたら、それは汚いものでしかない。純真無垢な夜久を穢すなど、絶対卒業までしないと……決めていたのに。なんて、オレって意思の弱い駄目な奴なんだ。

それなのに、自己嫌悪に落ちいっているこんなオレに夜久は、オレの手の上に自分の手を重ねて言う。

「陽日先生……大好き。私……先生になら、何されてもいいです。……だから」

続きは恥ずかしさからか、紡がれなかった。だが、オレはそれを自分の良い様に解釈して、触れた手を最奥へと進めていった。
















いったいどれくらい経ったかなんて知らない。

時計なんて見る気もないし、むしろ真っ暗闇の中で蛍光塗料を使っていない時計が見えるわけもない。
それにオレは、ベッドに沈む夜久に快感を与える事で必死なのだから。
こういう事には全く疎いオレが与えるものを、夜久がこの行為を恐怖へと変換させないように。

「ぁ……ン、っ…………っ」

「痛い……よな?…ごめんな」

なけなしの知識の元で、シーツに沈む夜久のナカへ押し入った。初めてで濡れるはずのないそこを丹念に溶いてはみたものの、如何せんオレ自身が勝手が分からないので何の役にも立たない。

まさか、こんなに早くこういう事に及ぶとは思っていなかったというか、それはもう既に言い訳に過ぎないが、ちゃんと勉強しておけばよかったなんて後の祭か。何処がいいところなんて分かりもせず、仕方なく他のところを丹念に愛撫したり舐めあげたりして、快感を引き出してから先端を潜らせてみたが……。

キツイそのナカに、どうしたらいいのかわからなくなってくる。しかも、苦痛を我慢しようとするこいつの声を聞くと余計に。焦るな……慎重になれ!もどかしい感覚に耐えながら深呼吸をするが。

「はるき……せんせ…、私は…大丈夫だから」

「……夜久……っ」

「言ったでしょ……っ?はるき…せんせ…になら、何されても…いいのっ」

駄目なオレに対して、余りに献身的なその優しさが愛しくて、そして、やっぱり穢してはいけなかったと気付いたのに。それなのに、オレは本当にどうしようもない。それでも、夜久が欲しくて仕方ないのだ。
時間をかけてじりじりと距離を詰めていく。
痛みに苦しむその声を聞いては、顔中に口付けを散らして少しでも楽になればと。ようやくその終点が見えた頃には、額から流れた汗が滴り落ちていた。

「……全部、入った…ぞ」

「っ……ほんとう、ですか?」

「ああ」

僅かに声を弾ませた夜久に、オレも大きく息を吐いた。さて、この先どうしたものか……まさかココで出入りする事など可能なのか。そう考えて、夜久の負担を考えるととてつもなく難しくて、途方に暮れる。

「せんせ、い……」

「…なんだ?」

「あのね、……陽日せん、せいが、私のなかにいるの…っ、うれしい」

ああ、馬鹿。そんな風に煽ったらどうなるかわかってるのか?沸騰しそうな思考に、角度を増したオレの欲望。耐えろ、耐えろ、お願いだオレ!耐えてくれ。

「っ……くぅ……」

「んっ……、動いて…せんせ」

「頼むから…もう煽るな、無理させたくない」

「だって、先生の好きにされたい……」

段々と涙声になっていく夜久に、焦り出す。どうしてこいつは、オレの欲しい言葉ばっかりくれるんだろう。

「わかった…………ごめんな、痛くすると思うけど」

そろそろと緩慢な動きをさせながら、腰を動かしていく。時折聞こえる苦痛の声に罪悪感を覚えてしばらく、ようやく真っ暗なはずの視界に虹色の光彩がかかり、自分が始めたはずのこの行為がもうすぐ終わると安堵していた。

「好きだ……大好きだっ……っ」

「ふぁ……ン、はる…き、せんせいっ」

「オレが、好きになるのは、…お前で最初で最後だからな」

「っ……私も、です」

「……うぁっ」

嬉しい言葉に助長されるように、更に狭まった内側に圧迫されオレはナカに出しそうになるのを必死に堪えてから、急いで抜きとると、夜久の腹の上に醜い欲望を吐き出していった。















カーテンへ薄く差し込む朝日に、オレは目をしかめながらゆっくりと瞼を押し上げた。
あれ……えっと、なんだっけ?妙にせまっくるしいベッドに疑問に思いながら、そちらに目を向けると、見覚えのある姿に、目が冴えた。というか、頭も冴えた。

そ、そっか。オレ……こいつとついに……!

すやすやと気持ちよさそうに眠る夜久があまりにも可愛くて、そっと抱き寄せようとしたが、触れる肌から生まれる邪な感情に、手が止まる。

時計を見るとまだ起きるには早い時間帯だと分かったが、誰も起きていない時間出なければ、こいつを部屋まで帰してやれない。俺たちの関係は誰にもバレてはいけないんだ。



「ごめんな……、せめてオレが教師って立場じゃなかったらよかったのにな」

そんなこと言ってもどうしようもないが、約七歳の歳の差の所為で、きっと寂しい思いを沢山させているだろう。起すのがもったいない位の幸せに、夜久を呼ぼうとする声が出ない。

あと……五分だけ、五分だけでいいからこのままで。

小さく寝息を立てるその顔に、そっと近づくと触れるだけの口付けを落として、オレは隣で眠る夜久を見続けていた。








誘惑のスイートタイム
2009/10/30
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