真魚父と酒を飲みに行った日の出来事妄想。
※18歳未満(高校生以下含む)閲覧不可。
傍にある温かさが、とても心地よかった。
明け方の空はまだ薄ぼんやりとした明るさしかなく、ブランド越しでは余計に部屋は仄暗くなる。何度か目を瞬かせながら温かさのある所に焦点を合わせた基は、次の瞬間、眠さなど一気に吹っ飛んでしまう程、目の前の出来事に驚愕していた。
「嘘だ…ろ……」
思わず出した声は、酷く掠れていた。
肌を合わせるそんな距離に、幼なじみの女の子が寝ている。
幼なじみと言っても、今は一つ屋根の下一緒に暮らしているのだから、家族のようなものだった。
基にとって、その女の子――真魚はどこまでも妹という存在で、それ以上でも以下でもない。
真魚から『好き。』と想いを伝えられても、それは揺るがなかったはずだった。
それなのに、なぜ。
どうして、真魚がここにいるのか。
痺れた自らの腕に目を向ければ、真魚の頭がちょこんと乗って、安心したように基に寄り添っていた。
胸や腹に当たる柔らかさは、衣類の柔らかさなどではなく、人が持つ柔らかさ、そして温もりだった。
互いに衣類を着ていないことが、そこで明白になり、体内温度は急激に上昇していった。
(いくら何でもマズいだろこれは……)
学生の時はバイトばかりでモテても付き合う事などなかったし、社会人になったら忙しすぎて出会いの時間さえないのだから。
相手が真魚でも、考えただけで下半身にクるものがある。
(クソっ……)
反応しそうになる身体をこらえ、基は反射的に身を引こうとしたが、寄り添う真魚がそれを良しとしない。
身をよじりながら、また基へすり寄った。
(マズいから…マジで)
重なった肌に、呼応するように熱が発せられる。
背筋を抜けた快感が下半身へと誘われ、基は身体を震わせた。
「クッ……」
奥歯をかみしめてから、深く深呼吸を繰り返す。ここで自分が耐えなければ、また取り返しがつかないことになる。
更に後ろへ後退し、真魚の頭が乗ったままの腕を解放しようとそろそろと脱出を試みた。
自分が動こうとするたびに、真魚と自分を覆う掛け布団が捲られて、真魚の身体が晒される。目を背ける事など容易いはずなのに、それは外せなくなる一方で、胸元が見えそうになるたびに基の呼吸は荒くなる。
(これ以上は……!)
耐えられなくなった基は、慌てて腕を外したが、その拍子に真魚の頭がポスンと軽い音を立てて枕に沈んだ。
「んんっ…」
乱暴過ぎたのか、そのせいで基が一番恐れていた事態が起きた。
起きるな起きるな。目を覚ますな。そう懇願する基の願いも虚しく、そっと開かれた真魚の瞼。そこから現れた大きな瞳が、逃げようとした基を捕らえた。
ぼんやりと基を映した目は、刹那、見開かれてまばたきを繰り返した。
「あっ……!」
自分の状態に気付いたのか、真魚は全身を真っ赤にさせて基を見つめ、慌てて視線を外した。
「あー…………おはよう」
どう声をかけて良いかわからず、とりあえず挨拶を口にしてみたが、無視するように真魚は掛け布団の中に潜り込んでしまった。
だが、ぴったりくっついた身体はそのままだ。
「ま、ま、真魚!ご飯にしよう!用意するから」
慌てて離れようと基は布団から抜け出そうとするが、またしてもそれを阻むものがあった。
腕にすがりついてくる、柔らかなそれに、基は更に焦り出す。
「真魚!」
「まだ、ご飯いらない」
そう言って、基の腕を抱き締めて離さない。こうと決めたら真魚は気の済むまで、腕を離すことはないだろう。
前屈みになりながら、基は布団へと戻る。
「……基」
「なんだ」
「後悔してるでしょ」
未だ布団に隠れて見えない為、くぐもってそれは基の元へ届く。
「……は?」
「同情だったんでしょ?」
そうだ。真魚は人の気持ちに聡かった。
基の考えなどお見通しだったという事か。確かに、こうして真魚を抱く経緯が思い出せない中、その可能性がかなりの確率でしめていた。
「……そうかもしれないな」
そうはっきりと言葉にしてしまうのも本当はどうかと思った。けれど、真魚には嘘が通じない。すぐに見破られてしまうだろうから。
口にして早速後悔が押し寄せる。
もっと違う言い方が合ったのではないかと思ってならない。
あれこれ考えているうちに、抱き締める力が弱まっていった。
「基、ご飯」
「え?」
「ご飯作って!」
怒鳴り散らすように告げられて、基は追い出されそうになるが、これも真魚の強がりだと基にはすぐに分かった。
分かったからこそ、そこから去ることなど出来なかった。
隠れ蓑にする布団を基は力ずくで引っ張ると、涙を流す真魚と対峙した。
「ギャー、変態、痴漢!」
「ちょ……お前」
自分の身体を抱き締めてそう叫ぶ真魚に慌てるものの、基は真魚に覆い被さり、細っこいその両手を外した。
「ヤダ……ひろっ…ヤダってば」
「変態でも痴漢でもいいさ。同情?全ては否定しないさ。でも…」
片方ずつ自分の手に絡ませて、いつかのように手を繋ぐ。自分の下には、シーツに沈む真魚の姿がある。
「やっだ……ひろっ」
可愛い妹のようなものだった。けれど、今目の前に組み敷いて、そこには可愛さだけじゃない。確かな感情が芽生えていた。
「真魚を愛しいと思うよ」
「嘘……っ」
「本当だって」
信じないと突っぱねる真魚の顔に近づいて、基は自分の額を真魚の額にコツリと合わせた。
「好きだ……真魚」
そう想いを伝え、反論を待たずに基は真魚の唇を塞いだ。
唇が合わさるだけの口付けは、回数を増す事に呼吸を分け与えるような深いものへと変化して。
「ひろ……っ、あっ…基」
再び真魚が涙を流す頃には、その頑なな想いも互いの熱で溶けていた。
ただ、意地っ張りで恥ずかしがり屋の真魚は、呼吸を乱しながらも多くは語らず、基しか見たくないというように、繋いだ手を離そうとはしなかった。
退けるなんて出来ない
2011.01.04
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