だるさを感じる身体は、ベッドに深く沈んでいた。うしろからわたしを抱きこむ大きな手が、暖かくて気持ちいい。守ってくれるような安心感を得ると、わたしは瞼が重くなるのを感じた。
うとうとと眠りとの狭間を行き来して、もうすぐそれに落ちそうだと思った時、背後にいる椿さんが小さくうなった。
「あー……寝れねー」
その声で眠りの縁からすんなりと意識を取り戻したわたしは、小さく身じろぎをして、後ろを振り向く。
「……す、すみません」
「ん……ゴメン、起こした?」
「いえ。あの……やっぱり」
「いーって。こうしてくっついてりゃ、絵麻もお腹痛くないって言ってたじゃん?」
「でも、それで椿さんが寝れなかったら」
痛むお腹をがまんして、わたしは寝返りをうってから、暗闇のむこうにいる椿さんを見つめた。
生理がくるのは女の子だから仕方ないけど、鎮痛剤を飲んでもまだ違和感のあるお腹に苦しんでいた。
痛みにうなるわたしを、椿さんは気にかけて部屋にさそってくれたみたいだけど。
『くっついてたら身体あったかくて痛みもやわらぐかも』
言葉の通り、椿さんの温もりで痛みは減ったと思う。でも、そのせいで椿さんが寝れなくなったら意味がないというか、申し訳なくていたたまれない。
「ヘーキだって。絵麻は早く寝て。明日も一限からなんだろ」
「……でも」
「じゃあ、しばらくギュッ〜っしてていい?」
「あ……はい」
それくらいしか今のわたしにはできない。また背中から抱えられるように寝返ると、抱き締める腕が先程より強くなり、わたしと椿さんは密着する。
でも、その時気付いてしまった。背中に当たる硬いもの。
「あ……」
「え、何?」
「……いえ、あの……」
指摘するのも恥ずかしくて、言葉をにごしてしまうと、椿さんはバツの悪そうな声で笑った。
「ごっめ〜ん★もしかして、気づいちゃった?」
「すみません!」
「こっちは気にしないでいいから」
「でも……!」
「好きな子の隣で、平然と寝れるヤツなんていないよ。ましてや、こんなふうに抱きついてるし」
触れたお腹とは別の手が、やんわりとわたしの胸を撫でていく。
痛みの中で、甘い刺激がひくりと湧いた快感に、小さく震えていると、椿さんが耳元でささやいた。
「……そんなに気になるならさ……、キミがこれ抜いてよ」
「っ……?!」
いきなりものすごい提案をされて、押し黙ってしまってしまうと、クスクスと笑い声がした。
「ジョーダンだって、俺のことはマジ気にしなくていーから」
「……椿さん」
肩胛骨のあたりに、椿さんの額が押し付けられた。悩まし気な呼吸に背筋が僅かに痺れていく。
好きな人に触れたい。
そう思うのは、椿さんだけじゃない。わたしもそう。
戸惑いを浮かべながらも、腕を後ろへ回したわたしは、躊躇しつつ硬い熱をさぐった。
たぶん、顔を見合わせていたらきっとこんなことできなかった。
でも、こうして与えられていることばかりではダメな気がしたから。
「っ……なっ」
驚いた声がうなじに触れた。
先程背中に当たったところへ指をはわせ、たどたどしい手つきで熱を包み、ゆるゆると上下に動かすと、脈動をうちながら硬さが増していった。
「はっ……やっば。ふいうちすぎるって……」
吐息混じりに告げられた言葉にうれしくなり、少しがんばろうと奮起して、椿さんが寝間着にしてるズボンのウエスト部分から、中へと入ろうとしたけど。
「もうダメ……降参っ」
突然、後ろの温もりが消え、椿さんはベッドから出ていってしまった。
「……え?」
暗闇の中でもまっすぐ進む先は、……トイレ?
戻ってきた椿さんが、呼吸もゆるさないと言わんばかりのキスをしてきたのは、それから数分後のことだった。
色欲の眠り
2012/12/22
(エナメル)
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