哀想/100sss | ナノ


それはまるで鳥みたいだった。
首が痛くなるほど、青空を仰いだわたしは、太陽の眩しさに顔をしかめつつ、額の上に手をかざして鳥の人を見た。




昴さんが出るバスケの試合に前々から誘われていたわたしは、相手チームへの完膚なきまでの大勝利を収めた、ステキな試合を見た後、まだ興奮も覚めない内に体育館を後にした。
昴さんはこのあと、軽いミーティングを終えたら解散になるらしい。

『それまでどこかへ待っていてくれないか』

朝来たメールへ、肯定のメールを返信したわたしは、そんなわけで昴さんを待っている。
残暑が去ってひと月ほど経っているため、そろそろ気温的にも秋らしくなってきたけれど、やっぱり炎天下の下で待っているのは、ちょっと辛い。
本当は体育館の中で待っていようと思っていたんだけど、予想以上に人……特に女の人の姿が多くて、昴さんの名前をよく口にしているのを見て、少しだけ気落ちしてしまい。
歳の差はどうしようもないけど、昴さんを応援する女の人は皆大人っぽくて綺麗で。
羨むこの感情と向き合っていると、だんだんと気が滅入ってきて、仕方なく外へと出た。
体育館のすぐ外で待っていれば、きっと昴さんも探しやすいハズ。。
そう思ったけど、外は外で人がまた多くて、とてもここで待てる状態じゃなくなってて。
わたしはあれよあれよという間に、人並みに押されるように体育館から弾かれて、緑の芝生へと近づいていった。
大きな体育館を含め、外は広いグラウンドが併設されているこの場所では、他にもサッカーや野球の練習をしているようで、遠くで人の群れがなされていた。

必死にボールを蹴るところ、代打に出た人がホームへ懸命に走る様子。
それを食い入るように見つめてから、はたと気づいた。そうだ!昴さんに今いるところをメールしなきゃ。

『グラウンドの所にいます』

そう入力したあとすぐに送信したわたしは、時間を確認したけど、まだしばらくは昴さんが来そうにないと思い、頭を悩ませた。
少し散歩して、行って帰ってくればちょうどいいかもしれない。
わたしはそうしてグラウンドを練る様に歩き、時折立ち止まって練習の様子を眺めていた。
後ろから声をかけられたのは、そんなときだった。

「――おい、……絵麻」

「は、はい!」

ぼんやりしていた所で名前を呼ばれ、びっくりしながら後ろを振り返ると、そこには昴さんの姿があった。
もうミーティングも終わったのかと、体育館から結構離れた所にいる事に気づいたわたしは、さすがに慌てた。

「ご、ごめんなさい、昴さん!探させちゃいましたか?」

「ん……いや、人を撒きながら来たらちょうどここに出て、おまえが目の前にいたから」

「そう、だったんですか」

「……ああ」

「そういえば、……試合おめでとうござます。今日もすごく格好良かったです!特にあんなに遠い所から投げたボールが、終了一秒前に入った時はすごい感動しちゃって!」

「あれは、自分でもびっくりした」

「そうなんですか?」

「ああ……結構、無茶して投げた奴だったからな。……つーか、誰か寄ってくるのも面倒だし、ここから離れた方がいいかもな。おまえは……そのままそこにいてくれ。俺がそっちに行く」

実はわたし達は、一枚のフェンスを挟んで話をしていた。見上げる程に高いフェンスは昴さんの倍はあって、簡単には登れない。だからと言っても、フェンスの向こう側へ行く道も遥か彼方にあって、やっぱりすぐには昴さんの元へ辿りつけそうになかった。面倒なところに来てしまったと反省するわたしは、しばらく昴さんがくるまで待っていようと思ったけど、昴さんが手にかけたのはそのフェンス。

自分の二倍はあるその高さを見上げ、数回足をかけて昇り上げたと思ったら、次にはわたしの方へと飛び込んでいた。

「……きゃっ」

危ない!思わず叫んでしまったわたしに構わず、まるで人じゃないみたいに綺麗なフォームでこちらへと飛び降りた。青空に溶け込みそうなその姿を眇めていると、いつの間にかわたしの隣に昴さんは来ていた。
それは一瞬だった。でも、それがなんだかすごくキレイに思えて、あまりにもびっくりして。
私はしばらく言葉を失った。同時に今の目の前の出来事があまりにも衝撃、あんなにモヤモヤしていた心の中が消え去ってしまっていた。

「絵麻?」

「は、はい!」

「悪い……驚かせたか?」

「……いえ。ちょっとびっくりしちゃいましたけど、大丈夫です」

「……そうか。それじゃ、帰るか」

「……はい!」

進んでいく歩みと共に取られたわたしの掌が、大きくてとても熱い掌に引かれた。
ほっこりと安心する感情とドキドキする高鳴りを交互に味わいながら、わたしと昴さんは帰路へとつく。





うわべの揺らぎ
2012.08.19
(エナメル)
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