不都合な身長差05 | ナノ
僕の見る彼女は、大抵上目づかいだ。同じ目線で、ということはあまりない。これだけの身長差があるのだから、しょうがないと言えば、しょうがない。けれど上目づかいというものは、かなりの破壊力があると思う。僕に関して言えば、彼女に限ったことだけれど。


「誉先輩。」
「あ、夜久さん。次は移動教室かな?」
「そうなんです。…何だか廊下で先輩に会うと、不思議な感じがします。」
「ふふ、そうだね。いつも会うのは弓道場だからね。」
「でも、こんなところで会えると、何だか得した気分です。」


"何の得?"と聞きたかったけれど、僕の顔を少し見上げる様にして、笑顔をむけられたので、何も言えなくなってしまった。天然でこれをやってのける、彼女は本当に性質が悪い。


「誉先輩?」
「え?あ、うん。そうだね。」
「先輩、どうかしま…、いけない!授業に遅れるんで行きますね。」
「うん、またね。」


…よかった。時間に救われた。
彼女に"君の上目づかいにやられました"なんて言えるわけがない。

「きっと、夜久さんは気づいてないんだろうな…。」

まだ止まらない動悸を隠して、僕も次の教室へ急いだ。
(さすがにちょっと自覚してもらわないと…。)