君とここから06 | ナノ
こんな紙切れ一枚で何が変わるのか。

以前の僕には、どうしても理解が出来なかった。


「…実際に書いてみると違うものだね。」
「なにが?」
「いや、何でもない。」


目の前には彼女の欄は記入済みの“婚姻届”。あとは僕の分だけだ。
ふと隣の彼女を見る。まるで宝物を見るかのように、その紙を見つめていた。それが嬉しい半面、どこか不安を覚える。これを書いてしまって、いつか彼女のこの表情を曇らせてしまうことがあるかもしれない。それが少し、恐い。

「ねぇ、君は本当に…」
「郁。何度聞いても答えは一緒だよ?」

卒業を控えたあの日、彼女にプロポーズした日もそうだった。
僕をまっすぐ見て固い決意と自信を覗かせ、にっこりと笑った。

「…どっちにしろ、もう僕は君なしじゃいられないしね。」
「え?」

ぐっと力を入れて、判を押す。証人の欄には琥太にいと陽日先生。
…これで、完成。


「これで君も“水嶋”だね。」
「ふふ。うん、嬉しい!」

その紙を手に取り、幸せそうに微笑む彼女がひどく愛しく思えた。

「これから宜しく、奥様。」

真っ赤になってこっちを見たので、その唇にキスを落とした。

君とここから、2人で