キスをしよう:utpr | ナノ
“今欲しいものは、何ですか?”

目の前のアナウンサーに質問され、頬に手を当てて考える素振りをする。
もちろん答えは、“春歌!”と言いたいところだが、今は仕事中。可愛い男の娘『月宮林檎』である。

「んー、そうねぇ。これから初夏にかけて、トレンチコートとかかしら?」

“さすがオシャレな月宮さんらしいですね!”
というお決まりの返しを笑顔で受け流し、今彼女は何してるんだろ?とか考えている。
(あー、早く帰って春歌に癒してもらいたい…。)

「では歌のスタンバイ、お願いします。」
「はーい。」

毎回恒例の客席へのウィンクも忘れない。
今日は家で見てくれているであろう、彼女に向けてカメラにも。

(きっと、テレビの前で顔真っ赤にしてんだろうな…。)


スポットライトが当たる。イントロが流れる。
瞼を閉じて深呼吸。

(よし、帰ったら気がすむまでイチャイチャしよう!)

思わず笑みが零れたのを隠す様に、カメラに微笑んだ。