イブの齧った林檎:utpr | ナノ
アダムとイブが食べた林檎は、後に男の人の喉仏に女の人の胸になった。彼が紡ぐ音がここから生まれているのならば、確かにそれは神様も恐れるわけだ。与えたくなかったのも、頷ける。

その喉を震わせ、聞いた人を惑わせるほどの魅力が、彼の歌にはある。
これこそ本当の意味で、魅惑の林檎かもしれない。

隣で歌う彼のしっかりとした、その首筋がやけに目につく。
純粋にまるで子供のように、何の疑問も持たず手を伸ばした。


「…春歌?」

「私、不思議で仕方ないんです。」

そして導かれるように、彼の首にそっと触れた。
一瞬びくり、と退いたものの、彼はそのまま動かなかった。

「どうして、こんなにも惹かれるのか。どうしたら、あんな音楽が紡がれるのか。」
「…知りたいですか?」



「ええ、とても。」

彼が言葉を発するたび、触れた所がそれに合わせて震える。
…触れるだけじゃ、分からない。どうして、こんなにも魅かれるの?


「…なら、確かめて下さい。この声も身体も、私のすべては貴方のですから。」

何なら、齧って貰っても構いませんよ、と彼が笑う。
楽園にいた蛇も、きっとこんな目をしていたのかもしれない。



そして私は誘われるがまま、彼の首筋に唇をよせた。