HB2011 12 | ナノ
Happy Birth Day Azusa!

“あと少しで今年も終わっちゃうね”

すっかり暗くなった帰り道。吐く息が白く広がっていくのを見つめていると、ふと先輩が呟いた。そうですね、と返して先輩を見ると少し赤くなった指先に、息をかけては両手をこすりあわせていた。

「先輩、今日手袋ないんですか?」
「うん。今日寝坊して、慌てて出てきたから。」

そう言えば、昨日は満月で月が綺麗だった。きっと遅くまで、夜空を見上げていたのだろう。先輩らしいな、と思わず笑みがこぼれる。


「先輩。手、貸して下さい。」

そっと指先を握ると、じんわりとした冷たさが、自分の手にうつる。それと同時に先輩が頬を染めた。ふぅ、と息をかけたら、梓君っ!と手を離された。

「…せっかく温めてたのに。」
「でも、だからって、あの!」
「しょうがないなぁ。…もうしませんから、手繋ぎましょう。」

差し出した手のひらに、一瞬躊躇いを見せたが、おずおずとまだ冷たい手のひらが重ねられた。それをぎゅっと握って、自分のコートのポケットに入れる。

「ほら、温かくないですか?」
「…ありがとう。」

恥ずかしそうに握り返された手に、思わず顔が熱くなった。何だか悔しくて、それを寒さのせいにして、先輩と2人少しゆっくり歩いて帰った。