「…珍しいな、お前から抱きついてくるなんて。」
涙を堪える私は、上手く返事が出来そうにない。代わりに腕の力を強めると、そっと私の手に錫也のそれが重ねられた。その手は確かに男の人の手なのだけれど、冬になったからか水仕事をする彼の手は、少しかさついている。
私はそんな錫也の手が、とても安心するのだ。

「言わないと分かんないだろ。」
「…。」
「無理にとは言わないけど。…ほら、後ろじゃなくて正面においで。」

今泣いてるから離したくない。泣き顔酷いし。

そう言う前に、ゆっくりと手を解かれ、彼の前に引っ張られた。顔を見られたくなくて、俯いていると、指で涙を拭ってくれた。そんな事するから、余計に涙が出た。

「あんまり頑張り過ぎるなよ。辛くなる前に、俺を頼るように。」

まるで諭すように言って、正面から抱きしめてくれた。背中をポンポンと叩かれて、ホッとした。本当に“オカン”みたい。

「…言っとくけど、俺は“旦那”だからな。」
まるで心を読んだかのように、そう言われた。

そうだね、“オカン”とこんなキスしないもんね。
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