「ただいま。」 その声を聞いて、パタパタと玄関まで行く。そして彼めがけて抱きついた。 「わっ、ちょっと。月子?」 「おかえりなさい。」 驚きながらも、空いている手を私に添えてくれる。そう言うところが好きだな、って思う。帰ってきたばかりの彼のスーツは、外気に晒されていたから、冷たく肌に染みた。 (じゃあ、先にお風呂かな。) 「…どうしたの、そんなに僕が恋しかった?」 「ちょっと抱きつきたくなって。…寒いよね、先にお風呂を」 「いいよ。それよりも、もう少しこうしてたい。」 “君、あったかい”と肩に顔を埋められた。彼の髪が顔にあたって、くすぐったい。 「でも郁、風邪ひいちゃうよ?」 「じゃあ、君があたためて。」 気がつけば鞄を置いて、両手を私の腰に回していた。ちゅっ、と首筋に口づけられた。その唇が冷たくて、小さく悲鳴をあげてしまった。それが、彼に火をつけてしまったようだ。 「拒否はさせないよ?君が悪い。」 そう言って、冷たい唇が私の言葉を塞いだ。 |