変わらない日々09 | ナノ
初めて手を繋いだ時の事を思い出した。
彼女の白くて細い、小さな手が思っていたより熱くて、驚いたのを覚えている。それと同時に“彼女も緊張しているのか”と安堵したのだ。

…確かあれは、蜩の鳴く夏の終わりの頃だった。
少し涼しくなった風が、彼女の髪を撫で、舞うように流れるのを、僕はこっそり見ていた。その隙間から覗く彼女の頬は、ほんのり赤くて、自然と笑みがこぼれた。

“…どうして笑うの、颯斗君。”
“すみません。貴方の照れた顔が、あまりにも可愛かったもので。”
“!! 颯斗君ばっかり余裕で、…ズルイ。”
“ふふふ。…僕だって余裕があるわけではありませんよ?”

彼女は嘘だと言って信じてはくれなかったが、あの時の僕の手のひらは、彼女に負けるとも劣らず熱かったのだ。

あの時と同じ季節がやってきた。今年は去年よりまだ暑さが残るが、風は段々と涼しくなって来ている。

もうすぐ秋が来るのだろう。

「…颯斗君?」
「はい?あぁ、すみません。少しぼーっとしていました。」
「珍しいね、考え事?」

くすくす、と笑いながら僕の差し出した手に、彼女のそれを重ねた。もうあれから何度手を繋いだのだろう。これが当たり前になってきたあたり、1年という月日は短いようで、やはり長かったのかもしれない。

「もうすぐ、秋だなと思っていたんです。」
「そうだね。最近風がやっと涼しくなってきたもんね。」

それでも未だに繋ぐ彼女の手は、あの時と変わらない温度で、僕はとても安心する。
僕と同じだと。