どうか、傍に05パロ | ナノ
お嬢様が幼い頃、寝る前に神話をお話しするのが日課だった。
幼い頃からお嬢様の両親は留守がちで、お世話役は僕だった。
星が好きな彼女のために、神話を語る。窓から見える星たちを、彼女が眠るまで手を繋いで眺めながら。


“今夜は月が綺麗ですから、月の神話をしようか。”
“星じゃなくて?”
“月にも沢山あるよ。今日は月神トートの話にしよう。”


大きな瞳を輝かせて聞く彼女のために、沢山の神話を覚えた。よく考えたら、僕の神話が好きになったのは、彼女が始まりだったと思う。


「月子様、お茶をお持ちいたしました。」
「ありがとう。ねぇ、今日は満月なんですって!」
「それはそれは。…夜通し見られるのは構いませんが、あまり夜更かしをなさいませんように。」
「ふふ。はーい、わかってます。
 あ、そうだ。また神話を聞かせてくれない?昔はよく寝る前に聞かせてくれたよね?」

「よく、覚えてらっしゃいますね。」
「もちろん!私、誉さんのお話を聞くの好きだったもの。ね、お願い。」


…それは無理なお願いだ。もう幼い子供ではないのだから。
身分の違い、性別の違いは、行動を制限される。彼女は、僕の主人の娘なのだから。

「…お嬢様には、もう少し慎みを持って頂かないといけませんね。」
「え?」
「もっとうまくお茶が立てられるようになりましたら、考えます。」
「…お茶、ね。」
「私がちゃんとお教えしますよ。」
「だ、大丈夫。」
「遠慮なさらずに。」
「だ、だって誉さん厳しいんだもの!」


「お嬢様のため、ですから。」