お子様にハマる大人06パロ | ナノ
「これで5回目だよ?君本当にやる気あるの?」
「…すみません。やる気だけは、あるんですけど。」
「じゃあ、行動にあらわして下さい。月子嬢。」

女性も知識・教養を問われるようになった、この時代。学院だけではなく家庭教師を付けることも、御令嬢の中では当たり前であった。僕はこの夜久家の令嬢、夜久月子嬢の家庭教師をしている。今ではここまで打ち解けたが、最初からこうではなかった。

初めて会った時の彼女は、いかにも“御令嬢”という感じのお嬢さんだった。すました顔をして、なんでも“ハイ”という。全てを享受する彼女を見ていると、正直疎ましくてしょうがなかった。何も苦労の知らない、そんな印象があった。

夜久家は、いわゆる成金である。代々由緒正しき家柄というわけではない。周囲からは“金で物を言わせる”とか、陰口をたたかれる。風当たりは、けして良いものではない。かく言う僕も、少しそう感じている節があった。
そんな中彼女は立派に物事をこなし、それらを受け流した。実力で認めてもらおうと努力は怠らなかった。

“…今日は気分が乗らないですか?”
“え、いえ。すみません。”
“そんなに肩を張らなくて良いんですよ。無理しなくても。”
“でも、やらなくちゃいけないんです。周りに認めてもらうには…。”

たかだか17歳の少女が、傷ついていないわけがなかった。
そんな当たり前の事に、この時始めて気がついた。

“君泣いた事無いでしょ?”
“…え?”
“たまには、泣いたら?ここには僕しかいないんだし。”

そう言った瞬間、彼女の瞳からポロポロと涙が溢れ、しまいにはわんわんと、子供のように泣き出した。今まで見たお嬢さんからは、あまりにも想像できなくて、けれどそれが本来の17歳の彼女なんだと思った。

“あーぁ、レディには程遠い泣き顔ですね。月子お嬢様。”
今思えば、この時初めてお嬢さんの名前を呼んだ気がする。
“だって、郁先生がっな、いても良いってっ”
“はいはい。今日は好きなだけどうぞ。”
そして彼女が初めて僕の名前を呼んだのも、この時だった気がする。

それから散々泣いた彼女は、真っ赤な目をして
“ありがとうございます、郁先生。”
そう微笑んだ。その時、僕の中で何かが変わった。

「私、絶対来週までにダンス踊れるようにしたいんです。」
「来週まで?それは…」
「…無理ですか?」
「…やってみなくちゃ分からないんじゃない?」

僕の一言に、一喜一憂する彼女。
その笑顔に隠された、あの少女の涙。
立派なレディになんてならなくて良いのに。
ダンスだって、他の男と踊って足でも踏んで泣いて帰ってこればいい。
その時は、いつも厳しい分、優しくしてあげるから。

「ねぇ、君何回目?」
「すみませんっ!本当にすみません!」
「これじゃ、本当に泣きついてくるようだなぁ…。」