君が望むなら、何処でも行くよ04パロ | ナノ
めいいっぱい着飾って、慣れないヒールのある靴もはいて。
にこやかにほほ笑みながら、“似合う?”と聞いたお嬢さんは、本当にズルイと思う。

「あ、あぁ。凄く似合ってるな。」
「ふふ。不知火が言うのだから、間違いないわ。」


これから俺は自分の好いている人間を、誰にも見せたくない位美しく着飾ったお嬢さんを、恋敵の元へ送り届けなければならない。

「…どうしても行かなくちゃ行けないのか?」
「どうして?せっかく招待していただいたのに。」

「いや、何でもない。」

白い手袋をはめた手で、お嬢さんの手をとり車に乗せる。本当は連れて行きたくなんてなかった。

「褒めてくれるかしら…。」
「当たり前だろ。まぁ、そのヒールでこけなければの話だけどな。」
「だ、大丈夫!あれだけ練習したんだもの。」
「水嶋先生の足を踏んでか?」
「…もう。」


お嬢さんが着飾るのも、努力するのも、全てあの人のため。今日だって、あの人の夜会へ招待されたから、一生懸命ダンスの練習をしていた。

「お嬢さん、今日顔変だぞ。」
「え?」
「いつもみたいに覇気がない。もっと自信もって。」
「…うん。」

こうやって弱気になるのも、あの人のせい。

お屋敷につけば、使用人の俺は入れない。ただじっと外で待つしかない。

「…さぁ、着きましたよ。」

車から降りるのに、白い手袋をした手を差し出す。手袋越しに、お嬢さんの手が震えているのが分かった。

「…大丈夫。今日のお嬢さんは、誰にも負けないくらい綺麗だよ。」
「ありがとう、不知火。」

(この手を引いて、連れ出してしまえたら。)

「夜久様、お待ちしておりました。どうぞ。」

離れて行ってしまう手を、引きとめてしまいそうになる。
「…不知火?」
「すいません。…行ってらっしゃい、お嬢さん。」

「行ってきます。」

そうほほ笑んだお嬢さんが、あまりにも綺麗で胸が痛くなる。そんな俺の気持ちなど露知らず、屋敷の大きな扉が音を立てて閉じた。

最後に触れた右手が、異様に熱くなっていたのに気がついた。