一輪の花を、君に08パロ | ナノ
もともと植物が好きで、内より外にいる方が好きだった。
土いじりも嫌いじゃなかったし、この仕事は結構好きだ。俺は、あまり(ここ重要)背が高くなく、庭師には不向きと言われたが、努力と根性で補って、今では大きな屋敷の手入れにも呼ばれるようになった。

あるお屋敷で、俺は運命的な出会いをする。

“私、自分のお屋敷の庭が好きなんです。貴方が手入れしてくださっていたのですね”

そう笑って声をかけてくれたのが、夜久家のお嬢さんだった。前々から噂は聞いていたが、本当に綺麗なお嬢さんだった。俺はお嬢様という分類の人間が、あまり好きではなかった。どうも高飛車な感じがあった。
まあ、しがない庭師の俺は、会う機会もそうそうなく興味がなかった。


“あの、お嬢さん。そんなとこにいたら、汚れますよ。”
“あら、貴方だってそうでしょう?汚れなんて気にしません。”
“いや、俺は仕事なんで!お嬢さんは汚れたら怒られます!”
“良いじゃないですか。それともお仕事の邪魔ですか?”

それから植木の剪定が終わるまでしばらく見ていたので、整えるのに邪魔な所に咲いていた花を切り、お嬢さんに渡した。
(…しまった!こんな捨てるような奴じゃ不味いだろ!)

するとお嬢さんは、俺の土で汚れた手から花を受け取った。
“ふふ。私男の人から、お花を貰うの初めてです。ありがとう。”
その時の笑顔が、眩しかったのを今でも覚えている。

それから、何度かお嬢さんは俺のところに来て一緒に花を植えたりした。
俺は止めたのだが、お嬢さんが聞かなかった。その後はやっぱり、俺は親方に怒られた。お嬢さんが土で汚れて帰すのは、不味い。

でもその時間が結構楽しくて、お嬢さんを止めたりはもうしなかった。

「陽日さん、ご苦労様です。」
「…お嬢さん!今日はお休みですか?」
「ええ、午後からピアノのレッスンがあるけれど、それまでは。」
「大変っすね、お嬢さんも。」
「外で頑張ってる陽日さんに比べたら、全然ですよ。」

お嬢さんが、剪定して落ちていた花を拾った。
「これ、頂いても良いですか?」
「良かったら、新しいの切りますよ?」
「大丈夫です。これが良いんです。…捨てちゃうのもったいない。」

俺は梯子から降りて、下に散らばる葉と枝を掃き、比較的きれいな花を集めた。
「こんなんでよかったら、いくらでも。」
「…ありがとうございます。」
「いや、あの!お礼を言われるような事じゃ…。」
「前にも頂いたことありましたよね。私、凄く嬉しかったんですよ。」

(覚えててくれたんだ。…忘れてると思ってた。)

おもむろに、彼女の白くてきれいな指が、俺の頬を撫でた。
「おわっ!な、なな、なんですか!?」
「そんなに驚かなくても。顔に土、ついてましたよ。」

触れた頬が熱い、きっと日焼けのせい、じゃない。
嬉しそうに花を見るお嬢さんの横顔は、今まで見たどの花よりも…。