さようなら



「カルラ! 遅かったじゃないか!」

 戻るや否やドラコが声をかけてきた。
 一瞬彼がゴールデンレトリバーの子犬に見えてしまった。

「やあ、ドラコ。私としては、異なる寮同士でも仲良くできるということを体現できて満足なのだが、君は違うのか?」
「当然だ。なんでグリフィンドールなんかと仲良くしなくちゃいけないんだよ。それに、グリフィンドールには穢れた血が――」
「――ドラコ。君はいつ、私を怒らせたいと願ったのかな?」

 私が彼に冷えた視線を向ける理由は単純だ。
 ――そのことばで愛する人を永遠に失ったひとを、しっているから。

「それは、純血主義の人間もそうでない人間も含めて、絶対に言ってはならない言葉だ。血に穢れはない。呪いはあれど、病はあれど、絶対に、穢れはない。そもそも、スリザリンにだってマグル生まれはいるだろう」
「なっ……」
「私が純血主義だとでも? 今までの態度を見てよくそんなことが思えるな。私は君を否定しなかった。しかし、肯定だってしていないだろう。そもそも、私は純血かすらあやしい――この際だから言ってしまおう。私は、チェンジリングだ」

 スリザリンの人間の眼が、変わった。
 嗚呼、これだから人間は嫌いなんだ。

「両親のことなど、我が両親も、妖精王も知らなかった。もしかしたら、私の親はヴォルデモート……失礼、闇の帝王かもしれないな? もしかしたら、魔法のことなど信じていない家庭の子供かもしれないな? ……私は、純血という歴史は素晴らしいものだと理解している。周囲のマグル生まれ擁護に対し、自分たちの歴史を全否定されたような気持ちになるのも無理はない」

 グリフィンドールの人間の目が変わった。
 歴史を大切にしろと言っているくせに、自分や周りが「気に食わない」と言っているからという理由で評価や人間を嫌う。厭う。
 ――実に醜い。

「――しかし、穢れた血。それだけはだめだ。そのことばは、私の気に食わない。私の気に食わないなら、妖精王だって気に食わない。妖精全員気に食わない。なぜなら、そのことばは美しくない。そんなことばを使う君も、美しくない。実に残念だ。君の金髪は素晴らしいものだったのに」

 ため息を吐く。せっかく彼の矯正ができそうだったのに。
 私の気に食わないからといって妖精全員が気に食わないわけではないが、その言葉が美しくないのは事実だ。
 そして、妖精は美しいもの……特に、内面が美しいものを好む。

「嗚呼、ほんとう、人間はこれだから好きになれないんだ。妖精や人狼、半巨人というだけで差別するし、自分の嫌いなものを擁護する人間を集団で嫌うし。この醜さを好む妖精だっているけれど、私は好きじゃない。これから七年間、君たちのような人間と過ごすなんてお断りだ。私はもう帰る。……こんなことならホグワーツごときに来るんじゃなかった」

 その場にいた人間全員が私を睨んできた。
 はあ、とため息が出る。好きなものを貶されて腹立たしいのはわかるけれど、事実じゃないか。ホグワーツごときで学ぶより、我が両親、そして妖精王に学ぶ方が絶対に有意義だ。

「ととさま、かかさま、オーベロン、ティターニア。私は帰ります。もうこんなところにいる意味も価値もないので」

 青空に向かって話しかける。
 私は、二度目のホグワーツに対して、さして期待はしていなかった。まさかここまでとは思わなかったけれど。

「そうか。やはりそうなってしまったかの」
「――何か用ですか? ダンブルドア。私を止める気もないのにでしゃばってこないでください。ジャパンではそういうのを『老害』と言うそうですよ。まさに今のあなたじゃないですか?」

 流れるように嘲る。私は自分より年下の耄碌爺に言い負かされる気も、言われるがままになる気も一切ない。
 ダンブルドアとの会話に割り込む勇気はないものの、私の言い方に気分を害した害虫どもが睨んでくる。
 腹立たしいことこの上ないので、私は――

「虫の分際で生意気な。お前達など塵芥、有象無象だ。私の視界に入るな、人間」

 ――彼らの存在を葬った。
 どこにかというと、もちろん彼らの寮の談話室に。ダンブルドアを含めた教員は、もちろんスネイプの部屋に。殺しては妖精がまた差別されるので、生かしたまま。

「邪魔者は消えました。私は帰還いたします。王よ、父よ、母よ。どうか短気な私をお許しください。そして叶うならば、お導きください」

 妖精の姿現しで帰還する。
 私はやはり、人間が嫌いだ。友好的な態度をとってもすぐに差別される。

「ただいま帰りました、ととさま、かかさま、オーベロン、ティターニア」

 ふう、と息を吐く。そして私は独り言ちた。

「私は……私は、どうするのが正解だったのだろうか。私は、変えられるものを変え損ねたのではないだろうか。私は、もっと、感情を殺すべきだったのではないだろうか」
「それはない。それはないよ、カルラ」
「……ととさま」

 父は私を抱きしめながら言った。

「カルラはよくやったとも。君は人間のままでいいんだ。そうあるべきなんだよ、カルラ。君は感情を持っている。素晴らしいことだ。わざわざ化け物になんてならなくていい。けれど、もうあんな醜いところに行く必要はない。君はここでのびやかに、美しく成長してくれればいい」

 実に妖精らしい自分勝手な意見だ。しかし私だってそれに同意しているのだから、結局私も自分勝手で自分本位なのだろう。

「……はい、ととさま。どうか私を、お導きください」



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