妖精は命ずる




「右手を箒の上に突き出して。そして『上がれ』と言う」

 皆が「上がれ」と叫んだ。
 一拍遅れて私も命じる。

「上がりなさい」

 私の箒はすぐに上がった。ドラコもグリーングラスも成功している。あとはポッターやウィーズリーくらいか。それ以外の人間はみな失敗していた。

「おや、ミス・ホーデンワイス。なぜ学校の箒を使っていないのですか?」
「一応校長と寮監の許可はとったのですが、お話がいっていないようで。私は人間が加工した木材にアレルギーがあるのです。性能はさほど変わりませんので、この妖精の作った箒で許していただけませんか?」

 大嘘である。性能の差は比べるまでもない。むしろ比べることが失礼だ。
 ホーデンワイス家と旧知の仲のドワーフ一族が私のために木を選んでくれたのだ。それを父が加工した。そんな素晴らしいの二乗の箒が、人間の作った凡百の箒に負けるわけがない。

 ちなみにこの理由は真実だ。ボウトラックルと戯れても何ら問題はないが、木材になると、胃が締め付けられたような感覚に襲われる。樹木ならいいのだが、加工されているとだめだ。体が受け付けない。

 杖ほど小さなものなら多少の吐き気や気持ち悪さで収まる。妖精――ドワーフが加工したものであれば、どんなものでも拒絶反応はなかった。ゆえにこれは、人間に対する拒絶反応だろう。この辺もここで迷う理由になっているのだろうか。
 私は人間に対して友好的なはずなのだが……。

「そうですか……。でしたら構いません」

 スリザリン生にも話していないことだったので、全員が目を見開いていた。それを見たグリフィンドール生に「わざと性能がいい箒に乗るためにうそをついたんだ」などと言いがかりをつけられてはたまらないが、幸いそのような愚かなことをいうものはいなかった。

 次にフーチは、端から滑り落ちないように箒にまたがる方法をやって見せ、人間たちの列の間を回って箒の握り方を直していった。

「ドラコ、右手を左手の下に――そうだ。ふふ、緊張してるのか?」
「う、からかわないでくれ……」

 グリフィンドールはともかく、スリザリンは全員ほぼ直すところはなかったのだが、ドラコやパーキンソン、ビンスやグレッグ、ノットあたりが持ち手を間違えていたので訂正した。
なんだかんだ言ってドラコは緊張しいだ。なにかミスをすることは想定済みなので、フーチに注意される前に声をかけて、グリフィンドールに笑われないように手を打っておいた。それに気づいた彼は、「ありがとう」と礼を言ってきた。

「――さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、それから少し前かがみになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ――一、二の――」

 弱気な少年、ネビル・ロングボトムが飛んでいった、、、、、、
 見捨ててもいいが、私、ひいてはスリザリンの評判を上げるため、嫌々ながら助けてやることにした。視えてはいたが、あの頃は、まさか自分が彼を助けるため――未来を変えるために動くことになるとは思っていなかった。

「ロングボトム……ッ!」

 地面を蹴る。
 手を伸ばす。
 袖をつかむ。

 そして――

「浮け!」

 箒に片手でぶら下がりながらロングボトムを捕まえた私は、手から箒が離れていくのを感じた瞬間、短縮呪文どころか、無表情とはいえ、英語で必死に「浮け!」と叫ぶ醜態をさらしてしまったわけだが。

 想定外に、それで浮けた。

 ……さも「ここまで計画通りです。ええ。当然です」といった顔を作る。
 ニワトコ製の箒を呼び寄せ呪文――アクシオで足元に呼び、ロングボトムを横抱きにするために身体強化魔法――フォルティウス・コーパスを唱えて、箒の上でバランスを取りながら地面に近づく。そしてロングボトムに負担のかからないように飛び降りる。

「大丈夫だったか、ロングボトム。一応衝撃がないように配慮はしたつもりなんだが」
「え、あ、うん、なんともないよ。ありがとう」
「それはよかった」

 微笑んで、彼の足を地面につける。さすがに一見非力そうな私に抱えられたままというのは面子が立たないだろう。
 案の定ドラコがからかおうと口を開いたが、視線を向けてじっと見つめることで阻止した。そしてまた、グリフィンドール連中からの好感度が上がった。

「怪我はないと思うが、念のため医務室に行こう。私がついていくので、マダム・フーチは授業を再開してください」
「グリフィンドールの連中の誰かに付き添わせればいいだろう。何も君が行くことはないんじゃないか?」
「大丈夫だ。念のため見に行くだけで、どうせすぐ戻ってこれるさ。ロングボトムに怪我をさせないように細心の注意を払ったんだ。むしろ精神的な恐怖を負わせていないかが心配でならないな」

 そう言ってふわりと微笑むと、男子が色めき立った。当然である。何度でも言おう、私は見た目もスタイルもいい。

 ――一礼して、ロングボトムと医務室へ向かう。マダム・ポンフリーにおおまかな事情を伝えたところ、スリザリンに十点加点してくれた。この人にも加点権限があったとは、驚きだ。
 ……結果としては、多少恐怖心はあるものの、本人はあの経験を経てなお「飛んでみたい」という気持ちが強いらしいので、診察は五分と経たずに終わった。
 私はグリフィンドールの談話室について話を聞いたり、私が一人部屋になったという噂の真相を話したりしてのんびりと訓練場に戻った。



【 12/13 】

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