「伊智さま、準備はできましたか?」
「…………ああ」


たくさんの白装束を着た男達に囲まれて、私は十字架の下へ向かった。


『アンタの本当のお父さんとお母さんは、もうこの世にいないわ』
「………」
『信元さまは貴方の叔父。貴方たち二人は種族から逃げるように地球にやってきて、この村に降りた』
「……」
『アンタ達は息潜めて私たちの村で暮らしていたってこと』
「………やめて」

「はい?」
「やめて…」
「どうされましたか伊智さま」
「……なんでも、ない」


再び足を進めると男達もゾロゾロとついてきた。
焚火が、松明の火が、全て真っ赤に染まって見える。
村人たちは皆十字架を取り囲むように座っていて、中央に村長の勝也が立っていた。


「ようやく来たか」
「……」
「血染めの儀式から行おう」


安心しろ、既に村人から血は採ってある。勝也はそう言いながら村の娘に目配せした。
娘は樽を抱えて私の横にやってくる。すぐそばまで来ると、血なまぐささが漂ってきて私の中の何かが押し返ってくる感覚が回る。


「よし、神主よ」
「はっ」


神主が何かを唱え出したら、正座して固まっていた村人たちが何度も何度も宙に向かって手を伸ばしながら頭を下げた。
私は男達に中央に連れられ、娘が目を合わせてくるのに対してそっと睨んだ。


バシャァァァァァ


「っ……」


頭の上から村人全員の赤黒い血を浴び、咄嗟に目を閉じた。
ビチャビチャと地面に跳ね返る音がする。
すぐに鼻の奥がツンとする独特の香りを感じ取って、むせ返りそうになったけどぐっと堪えた。


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