ナシガ村。 何て恐ろしい村なんだろう。 自分が生まれた村なのに、こんなにも恐ろしく思ったことはない。 「おかえり」 「おかえりなさい」 暖かく迎え入れてくれる村人たち、その手には各々の武器。 今日で私が終わって、違う私が始まる。 さようなら。この体も結構楽しかったよ。 「さあ、体を清めよう」 「お湯は張ってある」 「祭りは2時間後だ」 背中を押されて屋敷の中に入る。 久し振りの家は、埃臭くてたまんない。 まあ、それでも昔は愛着を持っていたのだからしょうがない。 これも運命だ。 甚平を脱いで、生まれたままの姿で一人大きな浴場を歩く。 ここも血なまぐさくて大嫌いだった。 暖かいお湯の中に入って、天井から覗く月を見上げる。 ねえ伊智。 …あなたと私は共同体。 血がつながってる訳でもないのに、不思議だね。 絶対に切れてはいけない線でお互いの首を絞めているの。 私の事が嫌いでしょう。 私も、あなたの事嫌いよ。 あのね、私は村が大嫌い。 でもあの時だけは……神様が味方してくれたと思ったわ。 私が死んで、残りの村人はみな貴方を生贄に選んだ。 ううん…正確に言うと、生贄の私が乗り移る体を、貴方に選んだ…? 亡霊となった私は綺麗に空まで跳ぶことができない。 伊智の背中に蝶の刻印を刻んだ村人たちには拍手をしてあげたわ。 私は、また白夜叉さまに会える…って。 貴方は綺麗だから…背中に這える薄汚い蝶の絵をした火傷が、実に面白くて何度も笑えた。 醜いからだね。 「一人でペラペラペラペラ…ホント、兎姫さまは……プライドが高いのね」 「…意外と落ち着いているじゃない。どうだった?愛しの白夜叉さまとの半年間は」 「そりゃもう、あんなことからこんなことまで。たくさんあったわ」 「よかったじゃない。地獄の土産に丁度いいわ」 「悔いはない。…アンタにこれ以上、銀時さまに近付いてもらいたくないから」 「不思議ね。貴方が生き延びれたのは私のお蔭なのに、どうして私の事を」 「嫌いよ。アンタなんか大嫌い。…だから、私と死んで一緒に地獄に落ちてもらう」 「……言ってくれるわね。やってみたら?」 ザバン、と伊智はお風呂から上がった。 「神様はどの生贄を選ぶかなぁ?」 [←] [→] back |