∵<坂田視点


これは白昼夢なのだろうか。
いや白昼夢じゃなくても構わない。これは悪夢だ。
あの女から20万をもらって1週間がたった。
相変わらず仕事も来ない、せっかく貰った金を倍にしようとしても使い果たしてなくなって、俺達に残ったのは飲み終わったいちご牛乳と読み終わったジャンプ、食い終わった酢昆布の箱、使い終わったメガネだけだった。


「いやメガネって僕の事ですよね。何ちょっとゴミみたいな感じになってるんですか。使い終わってませんから!!!」

「うーるせぇなぁ…」ぎゅるゆるるるるるる

「「「………」」」

「銀ちゃぁん…お腹すいたヨ。もう私餓死してしまうネ。」

「はぁ、しょうがねえな…」


うちの神楽ちゃんが腹を空かせて機嫌を損ねさせたら、明日この家はないと思っとけ。これ坂田家の教訓な。
俺はだらだら立ち上がって冷蔵庫を覗き込んだ。


「…あー、塩と薄切りチーズと…キャベツの半分、か」

「なんか作ってー!」

「あーもう分かったって!」

「神楽さんお待たせしました!スーパーのお刺身パックとご飯で作ったなんちゃってお寿司です!」

「おーなかなかネ。あ、茶はそこおいてあるヨー」

「こちらですね。あ、新八さんと銀時さまも飲みますよね?」

「え、あ、はい、お願いします…」

「………ねえ、聞いてもいいかな?」

「うには苦手ですか?」


質問で質問を返すな!!!
俺は台所から離れてスタスタと奴まで歩き、首根っこを掴んだ。


「わ!わわ!」

「何をしに来たんだ」

「家事をしに来ました」

「ああ、そう。それで名前を何故知っている」

「色々な方に教えていただきました」

「ああ、そう。それでいつ帰ってくれる」

「洗濯をして床掃除をして買い物をして夜ご飯作ってお風呂に入って布団を敷いて布団に入り夜があけたら帰ります」

「それ泊まる気満々じゃねえか!!帰れ!」

「え?せっかく…なんちゃってお寿司作ったのに」

「うわめっちゃうまいアル!新しい何かを発見したネ!」

「ありがとうございます!あ、タオルお借りしても…いいですよねっ」

「なんでちょっと照れてるのおおおお!?帰って、頼むから帰って」

「え?あ、大丈夫です。着替えは持ってきてますから」

「いや帰って」


ダメだコイツ…残念な美人が多くないか、俺の周り。
溜息をついてソファに座り、寿司を一口つまんで指を舐めた。



「…帰りましょうね」

「…はい」


それから毎日来て一通り家事をしてくる奴は、今までの女の誰よりもハートが毛深いと思う。



20111116


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