「銀時さま」


もうすぐ夜が明ける。
寝室の中で、ぐっすりと眠る銀時と、枕元に座る伊智。


「明日になればすべて終わります」
「ぐあー…がー…」
「……あなたはいつも、私が苦しんでいる時…傍にいてくれますよね」
「がっ……」
「不思議ですよね。何でだろう。今はそれが、こんなにも憎いなんて」
「…………」
「私を許して銀時さま。全部、全部ね…私の想いがキッカケになっているの」
「……………」
「私が銀時さまを愛さなかったら…こんなことにはならなかった。…全部私が悪かった。だから……もし私がいなくなっても、泣かないで。………泣かないで、」


キランと闇の中で銀色の刃が煌めく。
逆さ持ちにした伊智は、溢れそうになる涙を堪えながら銀時の顔の真上にそれを掲げた。


「死んで…」


ザァァァァ
ドシュッ


「っ………く、ぁ」
「……」
「はぁっ………あ…」
「やっぱお前バカだわ」
「ぎ…んときっ…さま………」


銀時の横を通り過ぎ、己の太腿部分に突き刺さる直前に、強い手の力でその動きは止められた。



「俺の話一つも聞きやしねェ。正真正銘のバカだお前」
「はな…してっ!」
「知ってんだよ、何もかも…。テメーがいつも着物ん中に隠してあるナイフを毎日撫でるように触れてることも、テメーがいつも俺を殺そうと目を光らせていたことも、テメーんとこの赤い手紙も、何もかも…知ってんだよ…!!!!!」
「っ…」


ドシャァァァァァァ


力ずくで伊智からナイフを奪った銀時は、襖まで駆けて蹴り技を食らわせた。
グシャグシャになった襖の向こうでは、刀やら銃やらを持った男たち。
そして銀時の隣にすぐ神楽がやってきた。


「銀ちゃんこれ、いったい何アルか」
「何奴!?」
「てめェら人ん家ずかずか上がりやがって…宴会パーチ―ですかコノヤロー!!」
「捕えろ!!」
「待って!!!!!!!!」




伊智の大きな声で、シンと静まり返った。
寝室から体を引きずるようにやってきた伊智に、男達は安堵の表情を見せる。





「もう、いい。………武器を下げて」
「ですが」
「決めたわ。…私、行く」
「「「「!」」」」
「本当ですか!」
「ええ。……兎姫さまが喜びを見せてくださってるわ。……それでいいのよ。もとはと言えば、私が逃げ出したのが悪」
「そうでございます」
「そうと決まれば、さあ」




帰りましょうナシガ村へ。




111227
タイトルは創(きず)と呼びます。
まあそのまま刀でつけられた傷という意味なんですが、
伊智は銀時を殺そうとする自分自身に創を創ろうとした。
そういう意味もこめてみました。


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