「んー違う。これじゃない」 「……」 「いや違うのう…もっとフリフリしてるものがいい」 「こちらでしょうか皇子」 「違う!わしさっき何ていった!!?パツンパツンのスカートがいいって言っただろ!?」 「言ってねえよくそじじい!!!」 「ぶへっ」 ムカつく顔の皇子を吹っ飛ばして、私はフリルだらけのドレスの裾を持ってドシドシと会場を歩く。 連れ去られた先はターミナルの18階の結婚式会場。 初めての化粧までさせられて、今はドレス選びなんだけど…こいつ何なんですか。殴っていいですか。 ああ…やっぱりあの時銀時さまを止めなければよかった。あのまま助けてもらえばよかった。 「このままじゃ…ダメ」 とにかく脱出口を探さないと。そう思い会場をウロウロするが、南京錠で閉められた大扉以外見当たりそうにない。 はあ……もう、いい。諦めよう。 「伊智はどれがいい?」 「……んー、ピンク」 「白はいいかの?」 「白は本命にとっておきますから結構です」 にっこりとほほ笑みで返してハンガーにかかったドレスをばっと奪う。 近くにいたメイドさん3人を呼んで、今着ているドレスを脱がせてもらった。 どっかの星のクソ皇子くらいなら裸見られても構わないや、この際。 「ん?本命?」 皇子の言葉はガチ無視で。 銀時さま、助けに来てくれないのかな。 でも無理だろうな。関係者以外立ち入り禁止のターミナルだし。 静かだった会場に、綺麗なBGMが流れ始める。ああ、いよいよか。 最後の調整です。メイドさんからそう言われ、私は重いドレスを引きずって神父役の爺の前に立つ。 「それじゃ、誓いますか」 「誓う?何を?」 「え?話聞いてた伊智ちゃん」 「私がマヌケと言いたいんですか?失礼ですね聞いていました。誓えばいいんでしょ」 「なんかヤケクソォォォォ!!?」 なんだかんだ言ってリハーサルは終わり、私達は控室(といっても会場内にあるところ)に向かった。 別に早く銀時さまの出番がほしいとかそういう訳じゃない。なんだかんだ言ったんだからなんだかんだ終わったんだよバカ文句あんのかコノヤロー? ……それよりも、さっきのキスのことがちらちら頭の中に出てきて顔が赤くなっちゃう。どうしよう…。 なんだか、あんなにいつも銀時さまが私を愛してくれることを望んでいたのに…いざキスをしたとき、心臓がなくなった気がした。 平然とした態度をとったけど、もう内心ドキドキして死んじゃうかと思った。 死んでもいいとも思った。 「銀時さま……」 胸がきゅううと痛くなり、とっさに胸元に手を置いた。 大丈夫。銀時さまは、きっと迎えに来てくれる。そう信じている。 あの時みたいに助けに来てくれる。大丈夫、大丈夫…。 「伊智さま、お客様がやってきましたのでそろそろ準備をなさってください」 「あ、はい」 椅子から立ち上がって仕切られていた扉を開けて出る。既に人はたくさんいて、バカ皇子はその中央の道に立って私を手招きしていた。 「遅くなりました」 「丁度今からじゃ。ラブアンドピース、じゃぞ」 「そうですね」 「わしがラブいったら伊智がアンドっていって」 「二人でピースですね」 「わかりました(桂裏声)」 「…ん?今なんかおかしいのあったよなおい」 「そんなことないですよ?」 「どうしたんですか皇子ったら(桂裏声)」 「おい!アニメとかラジオだったら誤魔化せてたかもしれねーけど小説だったら全然誤魔化せてねーからな!一回見逃したのにお前もう一回やっただろ!しかもアニメやラジオでもお前の裏声では無理があるわ!そんでお主誰じゃああああ」 「伊智、こんなところで何をやっている?」 「か、桂たまっ!!?どうしてここに?」 「遊びに行ったらどうやらここへ潜入するとか言っていたのでな、ついてきた」 「え?」 「後でわかるだろう」 桂たまはフッと笑うと、綺麗で似合っているドレスを引きずって客の中に紛れ込んでいった。 皇子はぶつくさと言っていたけど、「私のご友人です」というとしぶしぶ納得してくれた。 「それでは皆様お待たせしました。新郎新婦は前へお進みください」 軽やかなBGMとみんなからの大きな拍手を背景に、二人で腕を組んで神父の前までゆっくり歩いた。 「それでは只今から、結婚式を始めます」 「………」 「ハタ皇子。貴方は妻、伊智を愛し共に手を取り合って人生を歩むことを誓いますか?」 「愛と地球にかけて誓うぞ。せーの、ラブ」 「アンド」 「ピー…スってあれ?伊智ちゃん?何で今言わなかったの。皇子恥ずかしかったよ」 「………」 思わず俯いた私の肩に、皇子が手をかけた時。 後ろの大きな扉がガン!と開きかけた。 みんな後ろを振り向いてそこに注目して、私も俯いていた顔をあげて後ろを見た。 ガン!ガン!!!ガシャァァァァァン 「あー結婚式中止のお知らせしにきましたー」 「銀…時さまっ」 [←] [→] back |