桂が帰ってから、万事屋はまたシーンと静まりかえった。
伊智は寝室から出てくる様子がないし、神楽も新八も白けた目をして銀時を見る。
…いや、今回悪かったのは伊智だが。


「僕姉上のところにいってきますね」

「私も定春と遊んでくるネ。夕方には帰るヨー」

「……いや、気使わないでもらいたいんだけど」


しかし返事はかえってこなく、銀時は深くため息をついた。



「……伊智−聞こえるかー。聞こえるなら襖叩くなり、なんか反応してくれや」



5秒ほど間が空き、トンと襖が叩かれた。
それを確認した銀時はドサリとソファに凭れ、鼻をほじりだした。



「あー…キツく言い過ぎた。悪かったな。神楽も新八も、まあ俺も…ちょっと言い過ぎたと思った面はあった。だけどあれはな…」



ダメだ。これではまた繰り返しになってしまうだけだ。途中で気が付いた銀時はガシガシと頭をかいて、「あー」と呟いた。




「月詠は関係ねーよ。あいつは、何かと俺と気が合うだけだ。何もお前が敵意むき出しにしなくてもいいだろ」

「…違うんです」



ようやく向こうから声が聞こえた。銀時はソファからだらしなく立ち上がって、襖を背に胡坐をかいた。



「私、嫌なんです。…私の知らない銀時さまを、あの人が……知っている事を」

「……」

「銀時さまの事が好きなんです。私は銀時さまのためなら、目の前にいる疎ましい女を殺すことだってできるんです。銀時さまに私を見てほしいんです。私だけを」

「お前、昔からそんなんだっけ?今流行りのヤンデレですかコノヤロー」

「ヤンデレでもデリヘルでも何でもいいですけど、私にはああするしかなかったんです。追い返す事しか。じゃなかったらすごくあの人が傷つくような事を、罵声を…浴びせてたと思います」

「デリヘルは関係ないでしょ。…あーなんだ、その。さっきもいったけど、ホントアイツは関係ないから。心配しなくても…俺、女にあんまり運ないから」

「……そうですか」

「…あぁ」


そこで会話は途切れた。二人は襖に頭を預け、上を見つめた。



「銀時さま?」

「あー」

「そこにいますか?」

「そこってどこだよ」

「襖のすぐ向こうに、いらっしゃいますか?」

「ああ。床が痛くてしょうがねーよ」

「…私も、です。こうやって空間は閉ざされているのに、同じ空間にいるみたいですね」



銀時はそれに返事をせずに、今度は襖と正面を見るように胡坐をかいた。




「同じ場所にいたいなら、こっちに来いよ」




突然スーッと開いた反動で、寄りかかっていた伊智は頭を落とした。
しかし床に落ちる鈍い音はしなくて、目を開ければ銀時の死んだ魚のような目とパチリとあった。
銀時の股の間に頭を乗せる伊智はまた泣きそうな顔をして両手をそっとのばした。
呆れるように眉根を下げて笑った銀時は、その手をしっかりと握りしめた。





「ごめんなさい」「悪かった」



「ヤキモチ妬いてたんです」

「うん、俺そういうの大歓迎」




「もうあんなことしません」

「俺も、気ィつける」









「あの二人さ、仲いいのか悪いのかわかんないよね」

「まるで中学生ネ。アイツらいつまで手握り合ってるアルか?青春を再復興ですかコノヤロー?」

「でもさ、結局伊智ちゃんが銀さんを探しに来た理由はわからなかったね」

「女心とほしの秋の空って言うだろ新八。そんなの、伊智に直接聞いてみりゃいいヨロシ」

「いや、ほしの秋は違うでしょ。……でも聞けないんだよなあ」


二人は青い空を見た。
どこかで煙があがっていた。
その煙は延々と空を登って行った。
ふと、元のテンポの会話に戻った二人に気付いた神楽と新八は
元気よく万事屋の引き戸を開いた。



111123
いややっぱちょっと意味がよくわかんないッスね。
チーズ虫パンになりたい 激しくなりたい


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