いつもと変わりない、そう、お金も仕事も何もない昼下がり。 今日も神楽は定春の散歩(本日3回目)に出かけ、新八はエプロンをつけ三角巾を被りはたきで埃を叩いた。さて、この万事屋の大黒柱坂田銀時こと銀ちゃんはソファに寝ころび、愛読書のジャンプを顔にかぶせ爆睡していた。 ピーンポーン 「すみません銀さん、出てください」 「あぁー?俺今寝てるんだよ。忙しいんだよ。お前が出ろよ」 「いや、喋ってる時点で寝てませんよね。出ないと今夜の晩御飯は銀さんだけ抜きですよ」 「お前は俺の母ちゃんか!」 ピンポーン 「ああ、もう…はいはい今出ますよー」 銀時は気だるげに起き上がって、鳴り止まないチャイム音を遮るようにガララと客を出迎えた。 あ、可愛い女の子。顔見えないけど。 「どうぞどうぞー」と少し気をよくした銀時が玄関に招きいれると、女はお辞儀をしてそろそろと家に上がった。 「お待たせしてすみません、どうぞこちらに」 「まあなんだ、気を楽にしてくれ」 「…ありがとうございます!」 女は笠を外してソファの横に置き、少し乱れた髪の毛を直す。 「それで、依頼の内容とは?」 「……とある人を探して、私は田舎から歌舞伎町にやってきました。1年間、探して探し回ったけど、その人は見つからない…。そこで、ここに来たらいいとある人から教えて頂いたので…」 「それで、その人の特徴を教えていただけますか?」 「あ、はい。えっと…」 「ただいまアルよー」 「あ、おかえり神楽ちゃん」 「……??」 「ああ、ここの住人」 「おぅ?何この可愛い子。銀ちゃんこの子に何ヤらかしたアルか」 「いや客だって客」 「ええ!?お客さんアルか!?」 明るい髪色をしたチャイナ姿の女の子、神楽が女に駆け寄ってその手を握りしめた。 「え、ええまぁ…」 「きゃっほい!これでまたご飯が食べれるネ!お久しぶりヨ!」 「ちょ、ちょっとそういう事を人の前で言わない!」 「で?特徴は?」 「あ、えっと…背丈が確か170?いや、180くらい…かな。少々筋肉質で侍の格好をして素敵な口元で」 「あ、待つネ。私絵書くよ!ほら、犯人の想像図みたいな」 「あー、じゃあこのチラシの裏にでも書いとけ」 「うっす!」 「じゃあ、続けて…」 「あ、はい。死んだような魚の目をしていて」 「髪型は?」 「天然パーマの銀髪でした。あ、目は赤くて」 「…………(アレ)」 「声は低め…でした」 「神楽ちゃんできた?」 「んー……できたけど、」 銀ちゃんにしか見えないアル。と神楽がチラシをテーブルの上に置いた。 確かに、思い切り…いやこれは坂田銀時を書いているだけだ。 「…んー、いませんよね」 「(…もしかしてこの子の捜し人って、銀さんじゃ)」 「(んなわけねーだろ。お前この顔が世界中でどれだけいると…ないない)」 「名前は何アルか?ゴメスバン=フェキラとかアルか?」 「あ、白夜叉さまと申します」 「ん…ぇ?」 「白夜叉さま…ですVv」 女は恍惚の表情を浮かべ、吐息を吐くように名を告げた。 そう、銀時の昔の一つ名を…。 「「(や っ ぱ オ レ(銀 さ ん) じ ゃ ね え か !)」」 「恋人アルか?」 「に、なる予定です!時はちょうど攘夷戦争の頃で…私が逃げ遅れて天人に殺されそうな時、助けてくださったのが白夜叉さまでした…」 「へ、へぇー……」 「白夜叉さまはかっこよくて男らしくて、とても素敵な方なんです…。誰か、お知り合いの方とかいませんか?」 「「「………いや」」」 「…そうですか」 「あ、いやぁ………いない訳じゃないんだけどね?うん」 「……いいんです。白夜叉さまのために、と…こねくりまわしてきたこのお金も…無意味になってしまうのですね」 そっと懐から出したお金は、今まで見たこともないような札束。 思わぬ光景に3人はお札にくぎつけになった。 「こ、これは一体…」 「ざっと1000万。色々な所で働いて貯めたお金です。ここの人達は、お金さえあれば人の糞も食い尽くすと聞いていたので…」 「いや誰情報だよそれ。誰から聞いたんだよ!」 「それでお願いは聞いていただけるのでしょうか?」 「……えっと、白夜叉が誰かを教えたら…1000万くれるんだよな?」 「もちろん」 覚悟を決めた顔で頷く女。しばらくじっと考えていた銀時だが、彼も同じように覚悟を決めた顔で女を見つめ返した。 「名前は?」 「はい。柴田伊智と申します」 「そうか…。伊智、白夜叉ってのは―」 [←] [→] back |