万事屋で目を覚ますのは、これが初めてだ。
なのにどうして何にも嬉しく感じられないんだろう。
ああ、そうか。最悪な気分だからだ。



ガラ―



襖をあけると、3人は既にいなくなっていた。
どうやら今日は朝から釣りの仕事が入ったらしくって、いないらしい。
起こさないでくれたのは、多分新八くんが気を遣ってくれたんだと思う。
…もう家に帰ろうかな。ここにいたって、また嫌な思いをするだけだし。



「ワオン」

「定春…。お散歩にでもいこうか?」



こちらにゆっくり寄ってきた定春の頭を撫でる。
バクンと頭を丸のみされたけど、噛まれずにただ口の中で舐められた。




「うっ……く……」

「くうーん」

「定春ぅっ……」



さすがに犬臭くなって、おなかにボディーブローを決めてから顔を出した。
定春の息臭くなった顔を毛だらけの体に埋めた。





「嫌われたかもしれない。…やっと、やっと探し出せた人なのに。……これじゃぁ…全て台無しだよォ…!」


「わふん。わん!」



ピピッと、どこかで電子音が鳴った。
携帯…?なんて、この家にはないはずだよね。




「わん。わんわん」



ピピッ。定春が鳴いたら、またどこかで電子音。私は積まれたジャンプを崩して、その奥にある棚を開けた。
なんだ?コレ。犬の顔の形のゲーム機みたいなものが、あの電子音の発信源みたい。




「わん。わふ」




ピピッ
銀さん達は、伊智の事嫌いじゃないよ。




「え?」

「わおん」

人間って、どうでもいい人の道を正そうとする事はないんだって

「わふ」

ダメガネは好きだから伊智にそんな事言ってほしくなかった

「わおん」

神楽ちゃんは夜中にすごく泣いてたよ。ひどい事言っちゃったって

「くうーん」

銀さんは口下手で口説き文句の一つも言えないバカヤローだけど、




「わん!」

伊智の事をものすごく大切に思っているんだよ



「…そっかっ…へへ、ひっく」


止まらない涙をごしごしと右手の拳で擦った。



「わんわん」

だからみんな本気で怒ったんだ。みんなには、秘密だよ

「ふふっ……うん。わかった。定春と私だけの、秘密ね」



定春の頭を一撫でしたら、目を細めて寝そべった。
私は手に持っていた携帯機を棚の奥にやって、パタンと閉める。
ありがとう定春。でも、仲直りしにくいや…



20111122


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