∵<柴田視点

なんだかほんの少しだけ、銀時さまが私に向ける視線が柔らかくなった気がする。
もしかして、あの時の事を思い出してくれたのかな?
気付いたら寝ていたけど、それでも隣に銀時さまはずっといてくれた。
…私うれしいよ。銀時さま。



今日も朝、新八くんとほぼ同じ時間に万事屋に来る。
今日の朝ごはんは焼き鮭でいいよね。あ、銀時さまお魚って大丈夫かな?
そんなことを考えながらかぶき町の静かな朝を歩くのは幸せ。



「おはようございまーす」



ガララと、もう何十回この引き戸に手をかけただろう。それも、幸せ。
だけどいつも聞こえる皆の賑やかな会話は聞こえず、定春が歩いてくる足音しか聞こえなかった。
あれ?朝からお仕事かな、みんな。


「定春、今朝ごはんあげるね」


ふとソファの間にあるテーブルに目を向けると、何か紙が置いてあった。


「えっと…伊智さんへ、3人でお仕事に行ってきます。お昼過ぎの予定なんですけど、もしかしたら夜に帰るかもしれません。寒いので暖かい恰好をしてくださいね」


その裏をめくると、神楽ちゃんが書いたような落書きがあった。
そっか…じゃあ朝から来た意味がないなあ。
あ、でも家中を綺麗にしてみよっかな。普段掃除できないところもやってみよう。
神楽ちゃんの押し入れとか、トイレとか、あと銀時さまの寝室とか//
そうと決まればさっそく掃除に取り掛かるため、私はトイレへ向かった。


ピンポーン



「はーい!」



夕方、寝室を掃除していたらチャイムが鳴った。
皆帰ってきたのかな?




ガララ



「おかえりなさ…?い?」

「………あ、す、すまん。家を間違…(いや、ここは万事屋だ…)」



だけど皆じゃなくてお客さんだろうか、金髪と目元の傷が特徴的な綺麗なお姉さんが立っていた。




「お客さんでしたか。今従業員は仕事に出ているのですけど…話は聞けますから、どうぞ」


「あ、あぁ……」




家に招き入れて、私はお茶を差し出した。
女の人は右手に酒瓶、左手に煙管という変わった感じ。
ど、どうしたらいいんだろう…。




「あの、銀時は、いつごろ帰って来るのだろうか?」

「ぎ、銀時………ですか?そろそろ帰ると思うんですが、もしかしたら夜遅くになるかも…」

「ふぅ…そうか。ところで君は…」



そんなの私が聞きたい方だ。
なんで、銀時さまのことを親しく銀時などと呼んでいるのだろう。
黒いモヤモヤした気持ちが、またジワジワと私の中を這ってくる。
俯いた私の事を察したのか、「わっちは月詠じゃき」と先に名前を言われた。



「柴田伊智です。あの、銀時とはどのような関係でしょうか」

「以前…わっちの事を、支えてくれた…というか、うん。まぁ、ここでお世話になったものじゃ」

「へぇ…」

「この前もお世話になってな…銀時は、大丈夫であったか?一応、応急処置のようなものはウチでしたのだが……」



…………あぁ、あった。
銀時さまがいつになっても帰って来なくて、神楽ちゃん一人にさせるのは心配だったからずっと待っていた時の事だ。
包帯だらけで銀時さまは帰ってきた。
私は驚いたけど、何も言うことができなかった。
だってすごく嬉しそうな顔をしていたから。すごく悲しそうな顔をしていたから。
私が見たことない、寂しそうな切なそうな。
私が知らない銀時さまと……あの日、月詠さまは一緒にいたってこと?
………………………そんなのズルい。






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