「え?攘夷志士?」

「そうなんだよ。危ない奴らじゃないか見に来てくれ」

「……」

「人数と武器とか、ちゃんと見てくるんだよ。話しかけられたら逃げておいで」

「………」

「死んでも構わないけどね」


そう吐き捨てられて伊智はとぼとぼと兎姫の部屋に向かった。
部屋に入ると兎姫は、珍しく庭の向こうを見つめていた。


「お姉ちゃん、ちょっと出かけてくるね」


出かけ用の着物に着替えながら伊智は兎姫に話しかけた。
しかし兎姫は上の空で、ただずっと格子からどこかを見ているだけだった。



「…お姉ちゃん?」

「えっ……あ、う、うん?」

「どうしたの?泥棒でも見ていたの?」

「何言ってるの…。何でもないわ。どこに行くの?」

「うん、ちょっと…。一応刀も持っていこうかな」

「え、戦争でもしにいくの?」

「攘夷志士の人達がこの裏の廃寺を拠点にしだしたって、クソババーが言ってるの。様子見てこいって言われて」

「攘夷…志士……」

「天人を斬ってくれる人達」

「そう。いってらっしゃい」

「うん」



私は着物の袖に小太刀を隠して廃寺に向かった。
いまどき攘夷志士が近くに来たなんて珍しい事じゃないけど、毎度私が様子を見に行かなきゃいけない。
10の時に生死さまよったのもいい思い出だよ…。
伊智はもんもんと考えながら廃寺に辿りついた。
人影は見えなく、周りを注意しながら中に入った。




「すいませーん」




返事はない。ただのしかばね……ではなく、中に人はいない様子だった。
伊智はその隙を狙って廃寺の周りを探索しはじめた。
こんな所止めた方がいいのに。ここ、出るってよく噂になってるから。
そんな事を思っていると後ろから誰かが歩いてくる音が聞こえた。
伊智はすぐに草木に隠れ様子を見守った。
4人の男が泥だらけになりながら木や米を持っている。
食糧調達……?でもしていたのだろうか。





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