「ん…さん!」 「!…する…!」 真っ暗などこかで、誰かの声がする。 右から?左から?………どうやらそれは、両耳から聞き取れるみたいだ。 そっと目を開けてみようか。何が待ち受けているのか、分からないけど。 あの時の記憶がまたよみがえるかもしれないけど、少し勇気を出して。 目を開けてみよう。 「……っ」 「伊智さん!!もう、大丈夫ですからね!」 「しっかりするネ伊智!!!今私達が何とかしてやるからな!!」 「神……っ、神楽、ちゃ…新…八く、んっ?」 新八くんが私の右腕を縛る縄を、神楽ちゃんが左腕の縄を小さな尖り石で擦りながら私を見ていた。 なんで、ここにいるの? 「伊智!お前、私らにあんな手紙残しておいて何がラブレターネ!!ラブのラの字ものってなかったヨ!!」 「そうですよ!伊智さん、いつもいつも僕たちの後ろにいて、ろくに好きな男と話もしないでただ家事をして帰ってくだけ!!……そんなの、全然脈なしですからね!」 「…っ……それがよかったの!…それで…幸せだったんだもんっ……傍にいれたら…」 「傍にいる事だけで幸せ!?ホント、伊智は自己中心的な女アル!そういう女はモテないって本に書いてあったネ!少しはあの天パの幸せも、思ってやれヨ!!」 「好きな人が幸せになることで、自分だって幸せになれる!!だから天パの話もちゃんと聞いてやれ!伊智さん!!」 「どういうことっ…よっ……!グズッ…もう…いい、二人とも!早くここから逃げないと…」 「寝言は寝て言え、伊智」 下から、聞こえないはずの声がちゃんと聞こえた。 止まらない涙をぐっと耐えて下を見たら、武器を持った村人たちはみんな倒れていて、その地に立っているのは、銀色の髪に少し血をつけて悠々と上を見上げるあの人しかいなかった。 「男ってのはなァ、惚れた女をどーしても傍から離さないといけないときがある」 「っ…」 「そいつはテメーの武士道通せなかった時だ」 「…武士、道」 「俺はあの時…お前を見捨てた。差し伸べられた手から目を背けた。もう、俺にはお前を傍に置いてやるなんてこと…できねーと思った」 「え……それ、って」 「なのにお前はよォ、俺の気も知らずにノコノコこんな田舎からやってきて"俺に会いに来た"だなんて…ふざけてるわ」 「…っう」 「今度はもう、俺の傍から離れんなよ」 銀時さまがニヤリと笑ってこっちに駆けだしてきた。 その時拘束される腕が、ふっと解かれる感覚を感じて後ろを見た。 神楽ちゃんと新八くんが笑いながら私の背を押す。 「えっ…きゃ…!」 「伊智ァァァァァァ!」 長い長い十字架の一本柱を駆け上がって、空中に浮かぶ私に向かって両腕を広げた銀時さま。 「来い!!」 「えっ…でも!っ!」 「心配すんじゃねェ」 ぐいっと引き寄せられ、浮遊感が急に抱きしめられる圧迫感に変わった。 銀時さまは私の後頭部を自分の胸に押し付けながら、下から感じる強い風に乗って猛スピードで真っ逆さまに落ちていく。 「銀時さまっ…!」 「俺が一緒に、飛んでやる」 ガシャァァァァン!!!! 「銀さん!伊智さァん!」 「大丈夫ヨ新八!私らも早く下に向かうアル!」 「うん!」 上から二人の声がする。 パラパラと埃が舞い落ちるなか、至近距離で私と銀時さまは目を合わせた。 落ちた衝撃で何かの小屋の木板に挟まれて、抱きしめられたまま動けない私は鼻と鼻を近づけてくる銀時さまから目を離せなかった。 「………」 「…………」 「銀時さ「黙れ」……っぁ」 低い声で囁かれた瞬間、唇に熱い何かが当たった。 いや、当たったんじゃない。これはキスだ。 頭の中ではそうやって冷静に判断できるのに、心が動揺して銀時さまの着物をギュッと握りしめる。 「っ…銀時さま…!」 「ふ……」 「んむっ…!」 だんだんと激しくなっていくのに比例するように私の体全体がジンと熱くなる。 それはもうキスとは言えないような、唇を貪るように咥える銀時さまも、私と同じなのか時折熱い息を漏らしていた。 チュパ… 聴くだけで耳が熱くなるような音が小屋に響き渡って、私と銀時さまの顔も離れた。 お互い荒い息をしながらそれでもそこから身動きができず、そっと視線を逸らすくらいが唯一できる反応だった。 「……悪い」 「い、えっ………」 「…………帰るか。時期にボヤを聞いて騒がれる。警察来たらめんどくせー」 「………」 「よっ…と」 ガラガラガラ 上に伸し掛かっていた木々をいとも簡単にどかした銀時さまは、立てない私の両脇を抱えて小屋から出してくれた。 「神楽ぁー新八ぃー」 「「ういーっす!」」 「………伊智、帰るか?」 「…っえ」 「それとも…此処に残って、村を再び作るか?」 「………」 「作り、たい」 「「「!!」」」 「もう一度……はじめから、やり直したい。……こんな血だらけでも、泥だらけでもない…、もう一つの人生を…作りたいです」 「…そうか。んじゃ、行くぞ」 「……はいっ!!!」 絶えず燃えていた火は、フッと風によって消される。 数日後旅人が村を発見し警察に連絡、村人は全員気絶させられていたが軽傷で済んだ。 全員に約3日にも及ぶ取り調べを行ったところ、何故全員が気絶していたのか、その前後何が起きていたのかを知る者は誰ひとりいなかった。 後にその村の都市伝説とされ村人全員が其処から離れ、柴田家は財力も権力も失い天人によってかつてのナシガ村はゴルフ場へと姿を変えることになった。 眼が金色に染まるという一人の少女の謎の変体、その理由が分かるはまた後の話となる。 120102 次ページに軽く解釈を乗せておきました よくわかりにくい話になってしまいましたので…ごめんなさい! 是非一読いただけると幸いです [←] [→] back |