「銀ちゃん本当に道はあってるアルか!?」
「ああ!間違いねぇ!」
「こんな山奥…いつ獣が出てきてもおかしくないですよ!」
「!?見ろ、あそこだ!」


銀時は道から少しそれた右側を指さし、神楽と新八はその方向を見た。
向こうで山火事並の火が燃え上がっているのが見える。
伊智はあそこだ。間違いない。
銀時はそう確信して、複雑な山の道を駆け上がって行った。


「さぁ、右手を」
「……」
「左手を」


両腕を十字架に寄り添わせるように縄で縛られ、真っ赤に染まった白装束をそっと見下ろす伊智。
遥か下では村人たちが繰り返し頭を下げている。
柴田家の屋根から伊智を十字架に張り付けた男たちは下へと降りていく。


「今からアンタは飛ぶのよ」
「……」
「誰よりも美しく醜く、逞しく哀れに飛ぶの」
「………アン、タも」
「そう。私も。私と一緒に、あの月の向こうまで飛ぼう伊智」


目の前で愉快そうに笑うケダモノみたいな兎姫は、そっと私の頬を触った。
でも血の滑る感触に眉根を寄せてすぐに手を離した。



「恨むなら恨みなさい」
「…っ」
「アンタをここに連れ戻した私のことも、アンタを地球に連れてきた信長のことも、アンタをこんな風に殺そうとする勝也のことも、」
「……」
「アンタを最後の最後まで助ける事をしなかった、白夜叉のことも」
「……まない」
「えぇ?」



一瞬鼻で笑った兎姫を、ギラリと睨む。
私の眼に怯んだ兎姫は、時が止まったように私から目を離さない。



「恨まない。どんなにアンタ達を殺したくなっても、あの人だけは」




「!!おい、あれ……」
「伊智アル!!」
「早く行きましょう銀さん!間に合わない!」

「それじゃあまずは脳みそから差し出すと…するか」
「すぐに上へ行きなさい」
「「はっ」」

「お前ら…っ!!先に行け!」
「はい!」「早く来いヨ!!!」








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