「あの…」
「お?おんし、見ない顔じゃけん」
「あ…えっと…」


ここで伊智と言ったら、きっと辰馬さまは混乱してしまうだろう。


「柴田兎姫と言います」
「ほう、うさぎひめさんか。用があるんけの?」
「…はい。伊智の代わりに、おにぎりを」
「おお、そーかそーか!」
「それと、お話を」
「おお、そーか!」


辰馬さまに押されて寺の中に入った。
桂たま、高杉さま、他にもたくさんの人が寺の中にいたけど、銀時さまは見当たらなかった。


「こちら今日のおにぎりです。それと…銀時さまはいらっしゃりますか?」
「銀時か?銀時なら、あそこの縁側で夕涼みしている」
「ありがとうございます」


私は静かに走って、縁側に座る銀時さまの隣に座った。


「…なんだ」
「白夜叉さま…いえ、銀時さま」
「あ?」
「…伊智を」
「…」


「伊智をっ……よろしくお願いします!」


お願い銀時さま。


「伊智を護って………っ」

「……言われなくても」

「え…」

「言われなくても、好きな女の一人くらい……テメーで護り通す」

「好きな……人…?」

「伊智の事が、好きなんだ」

「っ…え…」

「…だから、護る」



銀時さまがふわりと柔らかい笑顔を浮かべた。



夢なんだろうか。
いや、これは夢の中だった。
でも……時空を超えて、銀時さまは私の事を…好きと言ってくれた。
死ぬ前のせめてものご褒美?

だとしたら、もういつ死んでも…構わないや。



私はそっと銀時さまから離れて、桂たま達に呼ばれ話に加わった。
みんな私の話ばかり…。
ああ……願わなくても、私はちゃんと…愛されていたんだ…。



パシッ。
右腕を誰かがつかむ感触があった。
……ああ、タイムリミットだ。
顔を上げたら、表情の見えない兎姫さまがいた。



「……伊智」
「……」
「帰ろう、伊智」
「!!兎…姫、さま」
「ありがとうございましたみなさん。それじゃあ、また明日」


また未来で。





そこで私の夢は闇に包まれた。


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